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急死に一生!とし太郎(中編)

中編:頑張れ、負けるな!とし太郎のとし太郎!

「40代男性、一人暮らし、激しい頭痛と前後不覚、体動不能。嘔吐2回」
「とし太郎さーん、聞こえますかー?CT撮るんで動かないでくださいねー」
「あのぅ、トイレ我慢してて……」
「は?我慢して!」
「あ、はい」
無慈悲に言い放つ看護師。こっちはこの時点であらゆるものを全力で我慢していて、その上で恥を承知で便意を申告しているというのに、看護師は無慈悲に「待て」を宣告。わしゃ犬か。あ、ハムスターだった。へけっ!

 救命病棟で手早くあれこれと簡易検査が施されていくが、もはやまな板の上の鯉状態のとし太郎。すべてはされるがまま、パンツを引きはがされ全裸のまま毛布なのかタオルなのかよくわからんゴワゴワしたものに包まれ、体のあちこちをまさぐられていく。これがレイプってやつか?

「CTでは脳に異常無し。うーん、頚椎症かな。搬送先は内科で」
「え?内科ですか?脳神経外科じゃないんですか?」
「まぁ現状ねぇ。MRI撮れないし」
「えぇ~(ガチ困惑する看護師」
聞いているこっちも困惑だが、何気に意識は鮮明なので「まぁ脳じゃないだろうな」と予想していた。搬送先が決まり、体が自分で動かせないということで、そういう患者が集まる病棟へ運ばれる。その間際、今回もっとも強大で恐ろしい、トラウマレベルの縛りがとし太郎を襲った。

「とし太郎さん、おしっこ我慢してるんだよねー? 尿瓶にする?それともカテーテルにする?」
カテーテル?なんか聞いたことはある。胃の検査とかにも使う細い器具だかなんかだ。齢40を超えて尿瓶に排尿するなど、この誇り高きとし太郎の魂が許さぬ。なんだかよくわからんが尿瓶よりはマシじゃろう、ならばそれにせい。と選択。

「まぁその方がラクか。んじゃ挿れるよ?」
挿れる?
なにを?
どこに?
え?カテーテルを挿れるって?物理的に?
とし太郎のとし太郎にカテーテルさんがこんにちわするの?は?

「痛いけど我慢してね。痛いけど」
とし太郎の立派なとし太郎を手にする看護師。何度も言うが、最初から最後までとし太郎の意識は鮮明である。頭は痛い、吐き気はやばい、体は動かない、全裸でクソ寒い、とし太郎のとし太郎が知らない人の手にある。この状況全てをとし太郎の意識は鮮明に把握しているのである。

カテーテル「こんにちわー!カテーテルでーす!」

ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!

人間は激しい痛みを同時に二か所感じることはできない。より強い方を優先する。このとき確かに、とし太郎のとし太郎がカテーテルと初の邂逅を果たしたその瞬間、その痛みは諸悪の根源たる頭痛を遥かに凌駕していた。とし太郎のとし太郎の処女が無残に散る。(注:後ろは無事)そういえば聞いたことがある。世の中には自分の尿道に細い管を入れて、それを刺激して性的興奮を得る性癖がある、と。曰く「尿道オナニー」だったか。確か記憶では、温度計を尿道に入れたままそれが折れ、悲惨な目に遭った者がいると聞いたことがある。

自ら望んで快楽を求めて地獄に落ちたそいつと、わけもわからぬまま、理不尽に異物をぶちこまれるとし太郎。果たして可哀そうなのはどちらか。いや普通に考えてオレだろ。

「はい入ったー。じゃ運ぶよ~」
鬼かこのババア。問答無用でストレッチャーからとし太郎を動かす看護師たち。揺れるたびに頭痛は刺激され、吐き気は強まり、一刻も早くラクになりたいと願うばかり。運ばれている途中、看護師たちは平気で日常会話をしていた。
「あ、●●さんお久しぶりですー」
「あれー、そういやシフトかぶるの久しぶりだねー」
「髪切りました?めっちゃ可愛いですね」
「えへへーそうなの~」
「なんかワカメちゃんみたいで可愛い~」
「ありがとー♪」
「いやワカメは可愛くねぇだろディスられてっぞババア」

口を挟みたかったが、尿道の処女喪失と進行形の頭痛吐き気で喋れない。そりゃあ彼女らにとってはこんなのは日常茶飯事で、彼女らのような存在があってこそ市井の我らはいざというとき最悪の事態を免れるわけだから、会話のひとつやふたつにとやかく言うのは無粋というのはわかる。わかるが。こっちは意識ハッキリしてんだぞ。

やりきれない気持ちを抱えたまま病室へ送られるとし太郎。
「なんかあったらナースコールしてください。お通じとかしたいとかあります?」
「ナイデス……でもわかんないデス」
「んーそっか。じゃあオムツですね」
泣きっ面に蜂である。尿道の処女を喪失した上にこの年でオムツ。絶対に排便してなるものかと心に誓ったとし太郎は、死地のなかで新たな念能力に目覚め、入院期間中オムツには一切排泄しなかった。「絶対排便禁止トイレット・コントロール」習得の瞬間であった。

点滴されつつ、もはや出来ることはないとし太郎は、
「あー、親への連絡どないしょ」
「明日久しぶりのテニスだったのになー。友達への連絡どないしょ」
「っていうかガラスよ。管理会社に連絡せな」
「ガラス割れたまま雨降ったらどうすんねん」
「会社また休まなあかんやん。有給無くなってまうやんけ」

と、比較的冷静な頭で現実的な問題の解決策を模索していた。
すると途中で看護師が

「今日は日曜なんでー、先生いないからー、検査とかは月曜日ね」

は???
そんなことあるん???頭痛くて吐き散らかして運ばれてねんぞ?まぁでもCTでなんもなくて、両手両足の動きもハッキリしてて、そもそもオレ自身が「大丈夫だぜアピール」をしっかりやっていた、ということに今さらながら気付く。そういうわけで、満身創痍&チンチンに管突き挿したままのとし太郎は、暗い病室で一晩を明かすことになる。

なるのだが。
そこはまた、別の意味で地獄であった。

(後半へ続く。後半は諸事情により有料です。買ってね!!)

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