痛みと寒気と、そして熱。

解熱剤が切れ始めると、次第に寂しくなった。
軋むような痛みが関節を刺激し、こんなにも厚着をしているのにどうしようもなく寒い。
それなのに顔周りだけはボーっと熱を帯びている。
痛みと寒さと熱を同時に感じた時、私は自分の無力さや孤独さに寂しさを覚える。
処方された解熱剤は、今となっては薬局でも手に入る大衆的なものだ。
しかし薬剤師がいないと購入できない。便利なのか不便なのか曖昧なところだ。
そしてそれはきちんとルールに基づいて飲まなければならない。
必ず1錠ずつ。そして次の1錠は必ず6時間以上間を空けなければならない。
私は布団に張り付いた自分の体をゆっくり横に向けて時計を見る。
アナログの時計は6時半を指していた。
カーテンの隙間から射し込む光では午前か午後かわからないけれど、最後に解熱剤を飲んだのは11時過ぎだ。
6時間はとうに過ぎている。私は枕元の体温計を脇に差し込んだ。
最新の体温計はすばらしい。1分もかからない内に正確な体温を計測してくれる。
しかし私は、その1分にも満たない時間さえも意識が朦朧とし、眠っているのか気を失っているのかわからない状態に陥る。
そういった人のためなのだろうか、計測終了を告げる音声はなかなかの音量なので助かる。
39度6分。
解熱剤の効力が切れたことや、痛み、寒気、そして顔の熱。
すべての点をつなげる線がこの数値だ。
体温計の隣に備えておいたピルケースとペットボトルの水を手に取り、解熱剤を口に放り込んだ。
何故だかわからないけれど、この瞬間が一番安心するのだ。
効力が現れ汗をかき始める時よりも、下がった体温の数値を見た時よりも、薬を口にしたこの瞬間が何より安堵できる。
「それ、ちょっとヤバイ奴っぽいね。」
昔兄に笑いながら言われたことがある。兄は今薬剤師として勤務していて、たまに会うとその話をされる。
薬物中毒者のようだという事だろう。でも私は否定できずに苦笑いを見せることしかできなかった。
処方箋とはいえ、依存しているのは事実だ。
現に今だって残り4錠となった在庫を目にして不安になっている。
今飲んだ1錠と合計しても、あと30時間しか熱を下げられない。
もちろんその間に自然と下がることだって大いにありえる。
ただ、下がらなかったら―?
死ぬかもしれないとか、そんなことは考えたことがない。
ただ、ずっと熱が下がらずに解熱剤を服用した時の安心感と、切れた時の不安感に支配されていくことが怖いのだ。
2日も仕事を休んでしまった。そんなこともどうでもいい。
この熱は、薬を使わずとも下がる時が来るのだろうか。
平熱より4度高いこの数値は、もしかしたらもっと上がるのかもしれない。
無理をしてでも仕事に行くべきだった。
忙しくしていれば自然に汗もかくし、余計なことを考えずに済むのに。
2日前、顔色が悪いからと私を早退させた店長の前に完璧なメイクをして元気な顔で立てばよかった。
そうずればこんな不安感は抱かずに済んだのに。
悶々としながら、結局私は深い眠りについた。
途中、ものすごく汗をかいて起きた。薬を服用してから、まだ2時間しか経っていなかった。
着替えて、布団に潜り、また目を閉じる。
どうか、どうか、次に目覚めた時も汗をかいていますように。
寒気や痛みを、そして熱を、感じませんように。

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