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バリューチェーンも組織も。目的のない垂直統合はうまく行かない?

日本国内のものづくり全般について考えれば、水平統合(分業化)と垂直統合(一気通貫)の話はよくある。ものづくりだとイメージが湧きづらければ、会社の機能別の組織と、事業別の組織をイメージしてもらえば良いかもしれない。

機能別組織の例を挙げると、経理部や法務部、マーケティング部、営業部など「職種」が部になっているようなもの。一方で、事業別組織は、EC事業部のように「事業」が部署の名前になっていて、ー部署の中に、営業や商品管理、デザイナーやマーケなど、複数の職種が集まっている。

この様な、横と縦の統合について考えていることをまとめてみようと思う。

最初は垂直統合された状態から始まった

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農業や漁業を始めとする一次産業や、加工業の二次産業に分類される、農作物をつくる、魚を採る、ものをつくるなどは、全て垂直統合された状態から始まっているはずだ。

垂直統合と書くと小難しいが、垂直統合の最小単位は一人ですべてをまかなう事で、ものづくりに関わる工程を一人で全てをやっている状態がそれだ。

例えば、土器を作ると考えると、その昔、野山で土を見つけてきて、こねて、形を作り、焼く、全ての工程を一人でこなしていたはずだ。
これが、全てが縦でつながっている垂直統合された状態だといえる。

そこから、どの様にして水平統合の形が生まれてきたのかを考えると、効率化の話にたどり着く。

水平統合は効率を重視することで広がる

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水平統合(分業化)が進んでいく背景のひとつとして、限定された技術の進歩があると考えられる。

産業革命の頃を想像してみる。

もし自分たちが洋服を作り売ることを生業にする、いわゆる衣料品メーカーで、足踏み式の織機で生地を作り、手作業で生地を裁断し、足踏みミシンで縫製をしていたとする。

そこに、蒸気の織機が導入されたらどうだろう。蒸気の力を使ったことで今までの数倍の生地が製造可能なる。しかし、飛躍的に生地の製造量が増やせたとしても、裁断と縫製のキャパシティが変わらなければ、販売可能な製品の量は増やせない。

▼以前
生地の製造量 1 → 裁断 1 → 縫製 1 → 製品 1
▼蒸気導入
生地の製造量 10 → 裁断 1 → 縫製 1 → 製品 1

ならば上図で余っている9の生地製造力で、他のメーカーの生地づくりを請け負う。さらには、これまで裁断や縫製を担当していた人も生地づくりに回ってもらい、更に製造量を増やす。自分たちの技術に集中することによって、結果として生地製造専門の中間メーカーが出来上がる。

資本主義社会のもと、そんな効率化や経済的な合理性を求めて辿り着いたのが分業化だったはずだ。

水平統合から垂直統合への回帰

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製造量が増え、更に産業が大きくなることで、製造、物流、小売などのサプライチェーンが複雑化し、バリューチェーンも複雑化する。一連の製品製造の流れの中には、ある部品を加工だけする会社とか、組み立てるだけの会社が生まれ、会社間の仕掛品を運ぶだけの物流会社や特定の製品のみに特化した小売など、つくるものや業界毎に分業化・専門家が進んでいった。

そこで起こったのが、部分最適の追求による各種の不整合だ。“部分最適の集合”がイコール“全体最適”とはならない。

・製造工程のどこかがボトルネックになり、生産量は増えない
・買い手の求めるものを作り手が把握できない
・複数社が関わることでのスピードの低下
・特定工程を担っていた会社が倒産し、ものが作れなくなる etc.

上記は個別最適を追い求め生まれた課題。
これらの解決を目指し、どんどん垂直統合への回帰が起こっていく。ここでのポイントは、水平統合から規模の小さい最初の垂直統合に戻るのではなく、技術を持つ会社のM&Aや、今まで外部にお願いしていた部分を内製で機能として新設するなど、ある程度の規模を持ったまま垂直統合を目指していったことだろう。


垂直統合は目的によって様々な形に

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SPAやプライベートブランド、最近ではD2Cなど、垂直統合された形態には、どこからどこまでを統合したかで種類があるが、注目すべきは統合された範囲よりも「統合の目的」にあるのではないか?

製造量の増加や製造コストの圧縮を目指したのがユニクロで、新しいデザインを市場に素早く投下するために最適化されたのがZARA。集客のための価格優位性を強化するために作られたコンビニのプライベートブランド。

今D2Cブランドと呼ばれるブランドには、「思いを届けること」に最適化した垂直統合や、「利益を出しながら世の中へも貢献すること」を目指した垂直統合もある。

昨今バズワード化しつつあるD2Cは、何を目指して垂直統合するのかの設定を誤ると、意味をなさないものになってしまうのだろう。

垂直統合によって実現するものの例

・サプライチェーンの整理による効率化やコスト圧縮
・製造から販売、CSまでを垂直統合することでの、ユーザーの声を反映した製品開発
・デザイン・製造・販売を垂直統合することでのブランドの世界観醸成

さまざまな業種がメーカー化し、新たな形の分業へ

最後に、垂直統合への回帰が起こったこれから後に何が起こるのかも予測してみたい。

これまでは、メーカーや商社、販売力のある小売が垂直統合して、製品の企画から製造、販売までを手掛けるケースが多かった。しかし、現在は影響力を持っている組織や、インフルエンサー個人がD2Cブランドとして製品を作るようにもなっている。つまり、バリューチェーンのどこかに一つでも強みをもっていればどんな業種でも垂直統合が可能になると考えている。今後は物流企業から製品メーカーへの転身や、マーケティングやメディア企業、IT企業などがメーカーになることも増えていく。

そうなると、これまでとは違う区切り方で再び水平統合化がなされる未来もあるのだろう。

IT企業からメーカーではなく、メーカーがITに進出した例にはなるが、Hameeなどはイメージが近い。Hameeはガラケーのストラップ販売から事業を始め、複数のECモールに展開。そのノウハウをもとに、ECモールや自社ECの在庫を一括で管理できる在庫連動システムを開発し、他のEC企業に提供している。

今後は、マーケティング企業がD2Cブランドとして製品を作りを始め、その過程で培われたノウハウやAI、ロボティクスを活かし、物流の一部と製造を請け負うようになる。

そんな未来が来るのかもしれない。

Writing by 那木(@NagiTakehiro)/BRIGHTLOGG,INC.


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