P3という作品

転換点


ペルソナシリーズは「3以前」と「3以後」に分けられる。1と2はこれまでに触れたが、1のサブタイトルであった『女神異聞録』の名の通り、女神転生の系譜としての流れが根底にあった。
3はそこから、ほぼ全てががらりと変わった。
UI、システム、グラフィックや舞台やストーリーも刷新され、全く新しい””ペルソナ””という流れを生み出したと言える。
これまでどうしてもアングラな、超一線級のメジャータイトルRPGと渡り合うまでには及ばない認知度だったペルソナを、一気に国民的ゲームと呼べる存在へと花開かせた、その萌芽であるペルソナ3。語り尽くせぬその魅力(そして一部の残念な点)を、少しずつ色んな側面から見てみよう。


前作からの継承


あらゆるものが刷新されたに近いP3だが、2罰の「自らの選択に責任を負う事」というテーマは引き継がれている。それが冒頭、主人公が署名する「契約書」である。
3以降、ベルベットルームの役割に変化があり「何らかの形で契約を結んだ者のみが訪れる」というルールが設けられた。契約者には青色をした「契約者の鍵」が渡され、これを所持している事でベルベットルームへと通じる青い扉が見えるように&開けることができるようになる(””鍵””は実体を持つわけではないらしい)。
この「契約」は、3~5までずっと主人公が結んでいる。ペルソナにおけるお約束のひとつとして既に定着した、と言えるだろう。


あらすじ


人工島、辰巳ポートアイランド。
日本はおろか、海外でも有数の企業グループである桐条グループの影響力を強く受けるこの島にある、私立月光館学園に、一人の少年が転入してくる。
彼(主人公)は、幼い頃に事故で両親を失っており、天涯孤独。
四月上旬の忙しい時期に加え、モノレールの遅延もあって、転居先に指定された寮の最寄り駅への到着は深夜0時直前となった。
0時。突如として電源が落ちる駅構内。
人気は絶え、無数の棺のようなオブジェが立ち並ぶ街。
不気味に輝く月の下、主人公は寮への道を進む。
無事に到着した寮のロビー、カウンターの向こうに一人の少年。
謎の少年が差し出す契約書に署名した事で、彼の運命は動き出す──

この後、寮の仲間であるS.E.E.S(特別課外活動部)の面々と共に人類の敵・シャドウを倒す戦いへと身を投じることになる主人公。
しかし、戦いの中で徐々に明らかになるシャドウの正体と、その目的。そして、その由来。
数々の意志と宿命が複雑に絡み合い、世界が滅びの危機を迎える中、絆の力が試される──



「絆」という概念、システムは、3以降のペルソナにおいて極めて重要な要素である。
『ペルソナ(能力)は心の力。心は「絆」によって満ちるもの。「絆」を結び、強くすることが、貴方を強くすることにつながります』(イゴールいわく)。
主人公は日常生活において、様々な人物・存在と関係を結び、絆を育むことで、自身のペルソナ能力を高めていく。それが、シャドウ討伐のための戦力を磨くことにつながるというわけだ。
ペルソナ使いは(相変わらず)個性の塊だが、街で主人公と絆を育む相手(コミュニティ)も負けず劣らず個性派ばかり。3では学園内のコミュがおよそ半数を占めるが、シリーズ最新ナンバリングである5では、学園外のコープ(5はコミュとは呼ばないので)も非常に多い。次のタイトルである6では果たしてどんな相手と絆を結ぶのか、というのも、シリーズファンには気になる話題である。
話を3に戻す。
コミュの相手たちは、彼らの人生を生きており、その一幕として主人公と出遭い、一時を過ごすに過ぎない。しかし、その出会いはかけがえのないものとして彼らの人生に刻まれる。同様に、主人公の人生にも。


一年


ペルソナ3において、主人公に与えられた時間は一年(実際に活動できる時間はもっと短い)。
3以降のタイトルでも、これは共通のシステムである。高校生活のうちの約一年という、極めて限られた期間を、何をし、誰と過ごすのか。一日一日、選択するその結果が積み重なり、エンディングへとつながる。
大別してグッドエンド、バッドエンド、トゥルーエンドの三つがあるが、3時点ではまだトゥルーエンドと呼べる大きな分岐はない。P3P(ペルソナ3ポータブル)において女性主人公、及びそれ専用の要素が追加されて、ある意味でトゥルーと言えなくもない途へのフラグも発生したが、個人的には3の主人公はやはり男性であるべきと私は思っている。ハム子は非常に魅力的だけれども。
さておいて。
一年という期間を、一日一日の積み重ねで過ごしていくと聞くと、大抵の人は長そうと思うのではないか。しかし、いざプレイしてみると一日に出来ることがあまりにも多く、その内のひとつを選ぶこと、そしてその他を諦めることが非常にしんどい。攻略情報でも見ながらなら英断と思える選択もためらわず取れるだろうが、何も見ない初見プレイではまずもって最適解(効率的な意味での)は選びようがない。成程、選択に責任を持つことの重さがひしひしと感じられる作りである。
今日はこれをしてあれをしなかったから明日はあれをしよう→と思ってたけど明日になったらイベントが起きたのでそっちをやらなきゃ→イベントクリアしたら新しい要素が解禁されたぞやったー→何か忘れてない?
こんな風に日々をうっかり過ごしていると、本当の本当に一年は短い。無駄に過ごしていい時間などほぼない。だというのにシナリオ上必須のイベントなどで自由に過ごせない時間は実にイライラする。現在の最新ナンバリングのP5Rでさえ、事あるごとに主人公を寝かしつけてくる猫に対するヘイトが高いくらいだ。より古い作品であるP3ではいわんや、である。
まぁしかし、別にP3(及びそれ以降のペルソナ)は一周で全てを遊びつくす事を前提に開発されてはいない。二周目以降への引継ぎや、解禁要素もあるし、むしろ何周もしてキャラクターの掛け合いや選択肢への反応を逐一確かめるのもいいだろう。戦闘においても、お気に入りだけど決して強くはないペルソナをひたすらに鍛えて実戦に耐えうる性能にするとかも楽しめる。私個人の意見としては、最低二周はして欲しい。欲を言えば完全初見の一周目、攻略など見ながらの二周目、取りこぼしや未練の解消で三周目として欲しい。まぁRTAでもするのでなければかなり周回に時間がかかるものなので、無理にとは言えないが。

数多の要素


上記のように、P3では一年間が日々の積み重ねで出来ており、その一日一日で、どんなキャラがどこにいて、何を話してくれるのか、何をしてくれるのか、何ができるのかが逐一違う。故に、そのテキスト量たるや膨大なものがある。
テキストを除外し、単純にイベントだけを数えるにしても、同時多発的に発生するイベントが何日も(それこそ一年分)あるのだから、そのすべてをプレイして実際に目に収めるとすればかなりの労力だ。
ただ、逆に言えばそれだけやり込みに向いた出来をしているとも言える。来年2月にはP3R(リローデッド)が発売予定だが、元祖P3発売からかなりの時間が経過しているにも関わらず、恐らく作品中のイベントを網羅していると胸を張って言えるプレイヤーはかなり少数ではないだろうか。
でもって、単に会話を楽しむだけにあらず。ミニゲームや買い物やクエストなども当然時間限定、日付限定で発生する。そうした「日常」だけで十二分に充実していて忙しいのに、ストーリーの攻略上戦闘は不可避なので、戦力の増強とか金銭獲得とかの目的でダンジョンアタックする必要がある。ますます圧迫されるスケジュール。悲鳴が上がる。
そんなにビッチリ予定を組まなきゃ楽しめないゲームなら嫌だ、と思われるかもしれない。が、決してそんなことはない。攻略上必要な強さはどうにかする必要があるが、他はクリアするという目的のためには必須ではないからだ。やりたくないなら勉強もバイトも、人付き合いさえもしなくたってどうにかなる。
ただ、要素として存在しているものを選ばない自由と、そもそも存在していないから選びようがない不自由とは全く別のものである。その意味で、ペルソナ3(とそれ以降のシリーズ)は極めて自由度の高いゲームなのである。


戦闘と攻略


メガテン、及び2までのペルソナでは敵は悪魔の姿をしていたが、3では敵(シャドウ)は悪魔の姿をしていない。代わりにペルソナが悪魔(や神)の姿及び名前をしている。
シャドウは完全に人類の敵なので、交渉の余地がない。ではどうやってペルソナを獲得するのかと言うと、戦闘後のシャッフルタイムでカードを引くのだ。
シャッフルタイムは必ず発生するわけではないが、総攻撃で戦闘を終えると高確率で発生する。
総攻撃というのは、シャドウの弱点を突いたりクリティカルを出したりして敵全部をダウンさせると行える万能属性全体攻撃の事で、HPやSPといったリソースを一切必要としないので非常に便利。かつ、基本的に高威力なので、3以降の戦闘の基本はいかに総攻撃を出していくかに集約される。
つまりは、敵の弱点を突き、ダウンさせることだ。中には弱点を持たないシャドウもいるが、そうした相手には状態異常、または耐性を弱化させるスキルが有効(だったりもする)。一部にどうやっても弱点が突けないシャドウがいるため、最終的には物理か万能でゴリ押す形になるのだが、これは許容してもらうしかない。
ただ、このシステムが実装されたばかりの作品であるP3は、正直粗削りの感が否めない。P3Pにおいては変更されたが、全体攻撃の命中率が決して高くない(安定しない)&一体にでも躱されると他何体弱点に当たっていようとMISS扱いとなり行動回数が増えないという仕様のためにいらぬストレスを抱えたプレイヤーは少なくはないと思われる。また、複数の属性を扱えるのが実質主人公だけであるP3では、必然弱点がばらけた敵グループに対して先手を取ると主人公のSPが早々に枯渇しがちという問題もある。ダンジョンアタックという長丁場を強いられるゲームにおいて、SP管理はなかなかの難題である。ただまぁこの点も、P3Pなどの後作では改善されている。
命中率という話の余談として、P3、P4においては近接武器でのATTACKが躱された際にダウンする(スリップダウン)事があるというシステムが存在する。これはP5においては削除されたが、個人的には戦闘のテンポを削ぐシステムだと思っていたので英断(魔法やスキルによるSP,HPの消耗を避けて通常攻撃を使ったら逆にこっちがダウンして殴られて気絶、最悪戦闘不能になって多大なリソースを消費する羽目になるというのは、どう理由付けをしても理不尽のそしりは免れまい)。

話がずれたので元に戻そう。
この、弱点を突いて行動回数を増やし、全体ダウン→総攻撃という流れは非常にテンポが良く、爽快感のあるものだ。P3以降のペルソナのお約束と化したシステムであり、また、総攻撃でとどめを刺した際の勝利演出(P5から)も加わってとてもかっこいい。P3リロードにも実装との事だ。ペルソナの「顔」のひとつと言える。
勿論のこと、キャラクターごとに演出が異なるのもかっこよさに拍車をかけている。


キャラクター


ペルソナシリーズはキャラの数が多い。パーティ、仲間だけでなく、敵、NPC含め、顔と名前、声があるキャラが多数いる。それぞれに人格があり、思惑があり、主人公に関わってくる。
数え上げればきりがないので、まずは主人公の最も身近な仲間、PTメンバーを挙げてみよう。*なお、ネタバレと独自解釈を含む

岳羽ゆかり:主人公が寮で最初に出会う仲間。同学年同クラス。弓道部。風魔法と回復担当。ヒーラーの宿命として打たれ弱い。
父親を事故で亡くしており母親とは別居中&そりが合わないという難儀な家庭。ツンデレと言うよりは狂犬の類。デレてくるシーンよりやたらと当たりがきついシーンの方が印象的。スカートがやたら短かったりピンク好きが前面に押し出されてたりするくせに男は大嫌い。めんどくさい女その1。

伊織順平:バカでウザくて友達枠。同学年同クラス。帰宅部。物理と炎担当だが全体物理は終盤に一つしか覚えないし炎は最後まで単体のみ。
家族は健在らしいが父親が酒乱&DVらしい。キャップ&ヒゲのせいで服装はそれなりにかっこいいのに全然かっこよくない。将来の夢=メジャーリーガーだった設定のために両手剣をバット持ちして振り回す。ストーリー上結ばれる相手が決まっているので攻略対象外。どこまでいってもうざい友人枠。人間としてちっさい。

桐条美鶴:特別課外活動部部長・生徒会長・桐条グループ令嬢・学園成績常時トップ。肩書が一般人と違い過ぎる生き物。非実在性高校生の筆頭。三年生。フェンシング部もやってるそうだ。主人公並みの濃縮人生。氷魔法担当で一応前線にも立てるという触れ込みだが普通に打たれ弱いし良くこけるしAIがポンコツのせいで補助魔法の存在が邪魔でしかない。P3Pでようやっと普通に戦えるようになる。
母親と幼少時に死別。父親も本編中に死亡。家庭に問題が無いとペルソナ使いになれない説を補強する存在。あと、P3以降における「学力トップ」は「=賢くて頭がいい」という意味ではないと身をもって知らしめてくれる。

真田明彦:順平とは別ベクトルのバカ。脳筋。三年生。ボクシング部主将。雷と弱体化担当だがAI(お察し)。拳は最も命中率が高い武器のひとつだが、普通にこける。
孤児院育ちで現在は養父母がいる(でも寮で一人暮らし)。食生活が壊滅してるくせにトレーニングメニューの考案とか走り込みにだけは熱心。絶対根性とパワーだけで何もかもを解決してきたタイプ。イケメン設定だが純粋な意味でコミュニケーションに障害を持っているので、一般人と対人関係が構築できない。

山岸風花:途中加入組の最初の一人。同学年別クラス。料理研究会(創始者)。前線には出ない後方支援(ナビゲーション)担当。しかしペルソナのステータスは最もバランスが良く、また弱点も持っていないので絶対強い。
親族含めて医療系の家系だが山岸家はその落ちこぼれだそうで、両親の過剰な期待に家庭での居心地の悪さを感じていた&ストーリー上でのあれそれもあって寮に越してくる。成績は優秀らしいが、特に医療が得意という話はない。メカいじりやハッキングに光るものがある+ガーデニングとかハーバリウムとか得意+料理が合体事故+CV:能登麻美子。個性が大渋滞を起こしている。流石ペルソナ使いだ。
ちなみにナビ担当は3以降も存在するが、そのペルソナ能力にはかなり差異がある(風花は範囲と精度においてシリーズトップクラスらしい)。

アイギス:対シャドウ特別戦闘車両。桐条グループによって開発された決戦兵器シリーズの七号機。正式には七式アイギス。メカ娘。本作のヒロイン。しれっと学校にも通う。同学年同クラス。外見上はへんてこなヘッドセットつけたパツキン碧眼美少女なのでメカバレはしない。お前らの目は節穴だ。
銃器による飛び道具と全体物理(打撃)、あと強化魔法担当(なおAI)。攻撃魔法を持たないので物理無効相手には置物と化す。オルギアモードという専用の強化状態に入るコマンドを持つが、要は単なるバーサーカーモードで、効果が切れるとしばらく行動不能になるので使いどころがない。せめて物理スキルが耐性を貫通するという付加効果でもあれば違ったのに。
対シャドウシリーズは様々な紆余曲折の中で開発が進行してきたが、アイギスを最後として開発チームもプロジェクトも解体され、以後後継機は存在しない。機械の身体に乙女の心、涙を流す機能など私にはありません等、王道はきちんと押さえてある。なお、繰り返しになるが彼女は「車両」である。

コロマル:イッヌ。主人公他二年生組の行きつけの神社の神主の忘れ形見。街中に発生したイレギュラーなシャドウを単身撃退したが負傷したところを真田に見つかり、桐条グループの獣医に手当てを受けた。その恩返しのためS.E.E.Sに所属。本作中トップクラスの人格者。炎と闇担当。イッヌなので防具に不安がある、かと思いきや専用防具は普通に仕事をするし足は何もなくても素早い。ハマですぐ死ぬ以外は本当に強い。本名は虎狼丸だが誰も気にしない。柴犬のアルビノ。

天田乾:アマダケン。小学生。後述の荒垣に母親を殺されたため復讐に身を投じる人生ヘルモードのお子様。雷と光担当。ムドですぐ死ぬ。コロマルの対っぽく見えるが雷が単体しかないのと、ブースタがないので攻撃力的に劣るのがあって、ハマ以外に用がない。一応地味に回復もできるが、それだけ。後付けで年相応の子供らしさを出してこられても初手が重すぎるため、可愛げのないガキ。

荒垣真次郎:不良(少なくとも不登校)。三年生。住所不定。物理スキルしか持っていないという極端さ&使用可能期間が短いために活躍とかするわけがない。弱点は持たないが、耐性も持たない。それでいて武器が命中に難のある鈍器のため普通にこける。彼は風花より後方支援担当なので戦闘に期待してはいけない。
世話焼きで気が利いて料理上手で、誰に対しても(口下手だが)言うべき事を言える。美鶴と真田は単に三年生だから先輩というだけだが、彼についてはちゃんと人間として先輩と呼べる。
ただ、生き方が不器用すぎる。


PTメンバーだけでもこの圧巻の陣容である。それぞれに濃く、それぞれに語るポイントがあるので、ガチのマジで割愛しないと終わらない。詳細はそれこそ情報サイトを見るか、実際にゲームをプレイして確かめて欲しい。
ともかくも、こうしたキャラクターたちが主人公と「日常」を過ごす様子が描かれていることが、2までとの大きな相違点である。2までは主人公たちは割とずっと異変の中に居っぱなしのため、日常⇔非日常と交互に描写されることでの対比とかとは無縁だったのだ。3においては「影時間」という、明確な非日常の世界が設定された事で、影時間と普通の時間がそれぞれに際立つ。これは、形を変えながらも4や5でも描かれている対比の構図だ。


結びに


語り尽くせないペルソナ3ではあるが、冒頭に述べたように、この作品の形が、のちのシリーズを「これがペルソナだ」というひな形として世にあらしめたのは間違いない。
触れ損ねたが、既存のいかなるRPGとも異なるサウンド(特に戦闘)は業界全体に衝撃をもたらしたはずだ。
紛れもない名作であるこの3から、更なる進化を遂げ、ペルソナ4が生み出される事となる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?