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月夜ね。

「綺麗な月夜だね。海岸通りを流そうよ」

綾はそう言うとRZ250のステップに立った。

いたずら顔してこっちを振り向き、キックペダルを踏みおろした。

エンジンかけると右手を上げ、自分が先頭だと合図した。

ぼくはCB550にまたがり猟犬になった。

2ストの臭いと、うっすら白い排気を追った。

こんなに明るい夜だと海岸通りが銀河に見える。

ハロゲンライトが月光の肘鉄くらってしょげてる。

ゆるりと海を見ると、大きな月が闇の海でねそべっていた。

波のゆりかご揺られて、なんだかとてもご機嫌よろしゅう。

しばらく走るとRZのウィンカーが点滅した。

フラフラしながら砂利の駐車場に入った。

ハロゲンライトを消すと、闇がそろりと寄ってきた。

ぼくらは怪しい闇に、たじろいだ。

ヘルメットをぬぐと、岩に砕ける激しい潮騒が聞こえた。

綾は両手を腰に置いて夜空を見上げた。

ぼくはシートにほおづえついて海を見た。

月光が海にゆらゆら落書きしてる。

「倉嶋、ボケボケしないでさ、こんなに綺麗な月夜、月を見なよ」

綾が夜空を見上げるから、ぼくは海を見ていた。

海へ延びる月光の道。

そこをバイクで走れる気がしてならない。

「倉嶋さあ、あの月光、教習所の1本橋を思い出すね。やだやだ。どうでもいいけど、バイクじゃ海は走れないから。ボケボケしないで帰ろうよ」

「んっ、うん」

そうは言ってはみたけれど、バイクにオールを積めば月光を走れる。

ぼくには、そんな、みょうな自信があった。

<http://tekustrada.jp/倉嶋>





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