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NHKの気象業務法関連報道について

下記報道について関係者の間で色々議論が交わされているようです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200911/k10012612441000.html?utm_int=news_contents_tokushu_002


70年前に制定された法律で今こんな課題がありますよと、海外の数値予報結果を使って台風についての見通しを伝えることについての話題から導入して、せっかく良い洪水予測の仕組みが開発できているのに、それを社会応用することができないという課題を紹介しています。


まず、海外の数値予報の件、気象予報士のモラル云々の話は別のところで議論されているのでここでは触れません。私からは、1 データ素材を誰もがネットで閲覧できる時代になった、2 台風の発生についての数値予報がある程度モノになりつつある、といった時代背景から生じている課題を述べます。今回の台風第10号についても、気象庁からまだ情報が出ない台風発生の数日前の段階で、ネットで結構情報が飛び交っていました。この状況に対して放置していて良いのか、社会の混乱を招くようなことはないのか(煽り的な発信にどう対応するのか、発信者にその意図がなくても受け手側が煽られることもあります)、という問題意識を私自身は持っています。

思い出すのは、福島原発事故の時、海外の放射性物質拡散シミュレーション動画がネットで拡散されていました。日本のしかるべき機関が沈黙していると、ネットに情報が溢れ、それを整理する人もいなくて何を信じて良いのかわからない状況になる危険があります。

さらにこの課題の根っこにあるものとして、利用者にとって、シミュレーション結果と現実のものとを区別することの難しさがあります。気象の専門家でさえも、シミュレーション結果をあたかも現実の大気と混同していることが少なくありません。動画表示等のリアリティが増すとともにさらに顕在化しているように思います。これは、新型コロナウィルスの拡散についてのコンピュータシミュレーション結果でも同じような課題があるようにみています。私自身、元々モデリングをやっていたのでシミュレーション結果が表に出てくることは嬉しいことでもあるのですが、観測事実とシミュレーション結果とを区別するリテラシーを高めていくことの重要性を強く感じています。この部分は、気象予報士制度の原点でもあるように思います。

次に洪水予測の予報業務許可の件ですが、NHKさんも把握されているはずなのですが、津波や高潮については予報業務許可の対象となっています。どれも重大な防災に関わる現象であるのに、津波や高潮は予報業務許可の対象になり、洪水ではそれができていないのです。ここでは詳しく述べませんが、この現状の背景を理解することなくして、この課題を論ずることは難しいように思います。

気象庁が39時間先までのメソ数値予報に基づき、流域雨量指数を使って何らかの情報を出すようになったら、少し変わるかもしれません。twitterでも指摘されていましたが、予報業務許可を出す気象庁自体が業務の実施者であることが課題であるというのは確かに正論ではあるかもしれません。そう言われないような運用をしていくことが求められているのでしょう。

予報業務許可関連の研究者サイドからの課題提起としては、以前にはNHKがY先生だけでなくM先生の課題についても取り上げていたのですが、今回はY先生の課題のみでM先生の課題は取り上げませんでしたね。M先生曰くこんなことで悩んでいる研究者は日本だけだということですが、確かに気象業務法のように業務を法制化している国はあまり世界には例がないようです。https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/sokkou/83/vol83p047.pdf
それに安座してはいけませんが、一方で防災の仕組みとして先進的と言える面もあるのは確かです。法律そのものではなく、法律の運用で解決できるものはその方向で解決していけば良いように思います。


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