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【ホンナビ】あなたが成功しているのは、努力の結果だけじゃない #テンカイズ

今回のプレゼンターは、NewsPicksエディター・プロデューサーの野村高文さん。野村さんがおすすめする本を要約し“読んだ気にさせる”企画「野村高文のホンナビ」をお届けします。

2011年に著書『これからの正義の話をしよう』で一世を風靡したアメリカの政治哲学者、マイケル・サンデル教授。最新本のタイトルは『実力も運のうち 能力主義は正義か?』。実力主義をテーマにした今回の著書には、一体何が綴られているのでしょうか?

1. 「運も実力のうち」ではなく、「実力も運のうち」?

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野村:サンデル教授という名前は、多くの方が聞いたことがあるのかなと思います。そして8年ぶりに出た新刊のタイトルが、『実力も運のうち』

宇賀:「運も実力のうち」とはよく言いますよね。

野村:どういうこと?って思いますよね。

簡単に要約して説明すると…
まずアメリカでは、受験を頑張って良い大学に入り、在学中にインターンも頑張って良い企業に入る。そして企業の中で出世をしていった人には、それ相応の社会的地位と金銭的な報酬が与えられる。これは日本でもそうですよね。

特に就職以上に大学受験の世界というのはフェアであり、基本的には勉強を頑張れば良い大学に入れる。それは、どれだけ家庭環境が恵まれていなくても、両親が良い大学を出ていなくても、その子の努力次第で良い大学に入ることができる。つまり「究極の実力主義」
そうした努力の結果がそのまま反映されていくと、世間一般で信じられているんです。

しかし、ここでサンデル教授がズバッと指摘したのが、その努力をできること自体が、運によって支配されているということ。正確に言うと、その子が生まれ落ちた環境によって影響されるんだということです。

宇賀:大人になってからの環境は自分の意思で変えられますけど、生まれ育つ環境はなかなか自分では決められないですからね。

野村:例えば、ハーバード大学やスタンフォード大学など超一流大学の学生の3分の2は、所得規模で上位5分の1にあたる家庭の出身だというデータがあります。過半数がそもそも裕福な家庭に暮らしているということです。もし本当に実力主義だったら、もっと分布がばらけているはずですよね。

また、アイビーリーグ(ハーバード大学を含む、8つのアメリカの私立名門大学の総称)の学生で、アメリカの所得分布の下位5分の1にあたる家庭の出身者は4%にも満たない。本来ならば20%はいるはずですよね。
それから所得分布の上位1%(年収63万ドル:6300万円の家庭)にあたる学生の方が、所得分布の下位半分に属する学生よりも多い。つまり、所得分布で下位半分の家庭に育っている学生よりも、1%のごくわずかなお金持ちの家庭出身の学生の人数の方が多いということです。

宇賀:なんとなくそういう傾向なんだろうなとは思います。教育に時間とお金をかけられる環境の有無、両親の意識の違いもありますよね。ただ、これほど顕著だとは…

野村想像以上に、お金持ちの家庭に育った子どもは良い大学に入って再びお金持ちになっていくし、そうじゃない家庭に育った子どもはあまり良いところには行けず階層が再生産されていくと、この本では示されています。


2. 平等な機会だけでは解決しない

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野村:ここで本質的な問題が一体どこにあるのか。
まず世間は、機会の平等を信じているわけです。つまり頑張れば上にいけることを信じていて、受験はその最たる例。ただそれは裏を返せば、苦しい経済状況に陥っている人々は努力が足りないとみなされてしまいます。勝った人たちが言うのもさることながら、苦しい人たち自身も「自分たちが悪いから、こうなってしまったんだ」と思ってしまっていることが問題だと言われています。世間にそういった雰囲気が蔓延しているんです。

自己肯定感が得られない、自分を肯定してあげられない。そうした気持ちを、エリートの人たちは本質的に理解できていない。「機会を平等に与えましょう」という議論ばかり進んでいますが、構造上の問題だということです。


3. 「実力も運のうち」と分かったら、どうすれば良い?

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野村:そして、これを一体どういうふうに読み解けばいいのか。

ちなみにこれはサンデル教授の特徴なんですが、「こうした方がいい」ってあんまり言わないんです。「あとは考えてね!」と、あくまで問題提起しかされていません。なので、そこからどういったメッセージを読み取るのかは、もちろんその人の自由です。

ただ、私がまず認識しなきゃいけないなと思うことがあります。現在、幸いにも経済的にそれほど苦しんでいない、つまり仕事もあり家庭も営めている人は、その成功はまず100%自分のおかげではないということを認識しなければいけないということ。まずそこから全てを始めなければいけません。

無意識のうちに、経済的に苦しんでいる方に対して「でも何かさぼっているんじゃない?」と思ってしまう。しかし、その人たちにそうさせている何かがあるんだというところに、想像力を働かせなければいけないなと。

また、社会でこの状況が続いていくと、分断されていきます。自分は努力によって成功したと思い込んでいるエリート層と、競争に負けたのは自分が悪いと思い込んでいながら不満が溜まっている人たち。そのように社会がどんどん分断されるんです。

宇賀:それは世の中全体にとっても良くないことですよね。

野村:はい、明らかに良くありません。
社会が分断されると、社会全体のコストが上がります。国という乗り物が、自分事じゃない人たちが増えれば増えるほど、フリーライダーが増えていきます。うまく仕組みを使って金を奪う人たちが増えたり、治安が悪くなったりとコストが上がります。社会の分断というのは、長期的には全員の利益を害します。この点も、問題として認識をしなければいけません。

そして、今苦しい立場に置かれている人たちは、「運が悪かった」と自分の心を癒してあげる必要もあります。ただ、全部人のせいにしても何も始まりません。

宇賀:諦めちゃうのが一番良くないですよね。

野村:1個だけやれることがあるとしたら、なんとか環境を変えていくことが重要になっていきます。そのためには、付き合う人と住む場所を変えてみるのは、とても有効な策になると心理学的にも言われています。

宇賀:大人だったら、ちょっと頑張ればできるかもしれないところ。

野村:自分がよく付き合う人5人の平均値が自分になるというふうに言われているんです。親しい人を頭に5人浮かべて、その人たちの価値観や経済状況っていうのが、だいたい自分だという。

宇賀:確かに、逆にちょっと背伸びして難しい話についていこうとしていると、だんだんと落ち着いてきたりしますよね。

野村:そうなんです。
背伸びをして、その人たちと対等に話が続けられるようになろうと頑張る過程で自分が成長していくし、自分に成長意思がなければその人と付き合い続けられません。

宇賀:やっぱり環境が大事なんですね。

野村:あとは場所を変える
お金は必要ですが、でも場所を変えるといろんなものが変わってきます。時間の使い方も、付き合う人も変わっていきます。

宇賀:これは野村さんも移住されたから、身に染みていますか?

野村:身に染みています。
時間の使い方はだいぶ変わりました。些細なことですが、起きる時間が早くなったり、運動に時間を使えるようになったりしました。

野村:あと最後、これは経済的に安定している人も苦しい人も両方に当てはまるんですが、多様な人たちと交流する人は想像力が働きやすいなと思っています。どうしても人間って、同じような属性の人とばかり付き合うんです。
公立の小中学校に通っていた方はその時のことを思い出してみてください。一番多様性があったと思います。高校以降になってくると、段々と似てくるんです。

宇賀:私もまさにそうでした。高校以降はどうしても、同じくらいの偏差値の人が入ってきますもんね。

野村:社会人になっても当然そうですし、大人になればなるほど自分で決められるものが多くなってくるので、なおさら属性が違う方と付き合わなくなってしまうんです。でもそれって、知らず知らずのうちに偏った考え方を自分に植え付けることに繋がっているんです。あえて自分とは違う属性、違う性格、違う考え方をしている人がいる場に身を投じてみることが、大事になってくるかなと思います。

宇賀:確かに、いろいろと考えさせられます。

野村:これはサンデル教授が出した問題提起ですが、現実問題として今こういったことが起きていることは確かです。この本にはアメリカのハーバード大やスタンフォード大の事例が多いですが、努力できること自体が環境によって支配されているというのは日本でも同じような状況があります。塾に行かせてくれる家庭、そもそも教育に時間とお金を使う価値が分かっている親と、そうじゃない家庭がありますよね。数年後にもっと極端な分断が起きかねないなと思っています。

宇賀:今、特にコロナでリモート授業とか進んでいるけど、家庭によってリモート授業ができる環境が全然違うじゃないですか。余計に差が出てしまうという心配もされていますよね。

野村:すでに教育の差が生じてしまっていますね。

宇賀:勉強になりました。
今回は野村高文のホンナビをお送りしました。皆さんもぜひ読んでみてください。ありがとうございました。


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