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住宅営業マン、8棟目は鶴の恩返しテイスト!?

住宅営業という仕事は、ほとんどのお客様にとって一生に一度の買い物かつ、ずっと過ごす空間をご提供するという性格上、とてもドラマティックな経験をたくさんできます。

長く住宅営業をやっていれば、美談の1つや2つは持っているものです。

3年目になり、来場数が少ない展示場に配属されて、絶賛不振社員となった私が出会ったI様との家づくりは、私にとって忘れられないエピソードとなりました。


○絶賛不振社員は暇

3年目に配属された展示場は、支店の中でも一番来場が少ない展示場でした。

ただでさえ接客が下手で管理客からのリアクションも悪い私は、展示場の接客からお客様を探さないといけない中でしたので、この展示場への配属は厳しいものでした。

4月から、なるべく先輩たちは数少ないチャンスを私にくれていたものの、そのチャンスをものにできず、夏までゼロ棟でした。。。

その年の当社は、3か月ゼロ棟だった社員に対して、「不振社員研修」なる研修を行っていました。

決していじめのような研修ではなく、勉強になるものではありましたが、そもそも「不振社員」の冠がついた場に呼ばれる屈辱でいっぱいでした。

店長との折り合いも悪く、毎日成果が合わらないことに対して嫌味を言われて仕事へのモチベーションはどん底、しょっちゅうさぼってコンビニの駐車場で寝ているような最低社員でした。


○ちょっと怪しいお客様がカメラに写ってる。。。

土日の接客もそんなモチベーションですから、いい準備もできておらず、事務所でコーヒーを飲みながら、一日が過ぎるのを待っていました。

暇つぶし程度に、研修資料を読み返していたときに、「売れていないと上司や環境のせいにする」という他責のネガティブスパイラルが止まらなくなるという趣旨の項目が目に入りました。

確かに、その当時は常に展示場のせい、店長のせいにして、売れない自分を守っていました。

そのダサさに気づき、結婚を意識しだした彼女とのことも考えると、きちんと将来を一緒に考えられるパートナーとして認められるべく、自信をもって仕事を続けられるようにならないとなと、思い直していました。

ムクムクと失われたやる気が取り戻され、どんなお客様でも丁寧に接客し、どんなチャンスも逃さない!と決意をしたその日です。

「あのー。。。」

展示場のパートの女性から声をかけられました。

「展示場の入り口をうろうろしているおじさんがいるんですけど、お客様ですかね。。。挙動不審なんですけど。。。」

住宅展示場にはカメラがいくつか設置されており、入り口にも当然カメラがあります。

そこに目をやると、確かにずっと展示場の入り口を往復しながら、こちらをのぞいている中年男性の姿がありました。


○モチベーション復活した私の案内はとにかく丁寧。

お客様でしたらモデルハウスに入ってご案内しなければいけませんし、不審者ならすぐに追い払わないといけないので、急いで事務所から玄関に向かいました。

「いらっしゃいませ。当社に御用でしょうか。お入りになりますか。」

恐る恐る、警戒しながら声をかけると、男性はびくっとしながら口を開きました。

「い、い、家を。。。た、建てたいんですけど。。。」

吃音かつ小声で、全身からひどく緊張と警戒をされている印象がありました。

テーブルにご案内し、アンケートを記入いただきながら、ゆっくりと計画概要を伺いました。

聞いてみると、男性は40代で、高齢のお母さまと2人暮らし。家が老朽化してきたので建て替えを検討しているとのことでした。

計画内容とお名前は記入いただいたものの、アンケートに住所は書いてもらえませんでした。

正直この時点では、「あやしい」という印象でした。

警戒しているから住所を隠しているのか、はたまた嘘をついているからなのか。。。そんな疑いを持ちながらも、「ちゃんとしたお客様でなくてもいい、だまされたとしても練習になったと思えばいい!」と思いながら、展示場をご案内しました。

練習だと思うと、心が軽くなって、とにかく丁寧に展示場の隅から隅まで会話をしながらご案内をしました。

あっという間に2,3時間接客していたと思います。日が暮れるころになって、I様は満足をされて帰っていきました。

別れ際に、次回のアポイントや住所の確認をしようとしましたが、「母から住所を教えたり、約束はしちゃいけないといわれているので、ごめんなさい。」と言って帰っていきました。

本当かな?嘘だったかな?それとも私の接客が満足に至らなかったから教えてくれなかったのかな?とモヤモヤしながら、お見送りをしました。


○次の週に。。。

接客がうまくいった感触がありながらも、アポイントどころか、住所も聞けなかった私は、またモヤモヤしてモチベーションはあっという間に元通りになってしまいました。

翌週になると、またモデルハウスの事務所でコーヒーを飲みながら、一日が過ぎるのをぼーっと過ごしていました。

この頃はやる気もないので、接客業なのも忘れて、しょっちゅう出前でココイチのカレーを食べて、モデルハウスをカレーの匂いまみれにしている最悪の社員です。

そんな日の夕方、展示場に上品な高齢の女性がいらっしゃいました。

「こちらにみのさんはいらっしゃいますか。」

「はい、私ですが。。。」

「先日、こちらに息子がお伺いさせていただいたときに、息子が大変ご丁寧な接客を受けたと喜んでおりました。他のハウスメーカーではいい加減な対応だったり、中に入れてもくれない会社もあったそうです。息子がこちらの会社で建てたいと申しますので、私も賛成しております。どうしたらこちらの会社様で家を建てられますでしょうか。」

思いもよらぬお客様の言葉に、私はしどろもどろのご案内になっていまったと思います。


○ここからはとんとん拍子に!

前回は教えていただけなかった住所もうかがい、家ができるまでのスケジュールをご案内しました。

I様が帰られてから調べてみると、敷地が200坪以上はあり、今のお住まいも立派なお屋敷でした。。。

急いで会社に戻り、設計のリーダーに相談し、今のお屋敷に恥じない立派なお住まいがお手伝いできるベテラン設計士をつけてもらいました。

打合せ自体も非常にスムーズで、お母さまはご高齢ながら非常に決断力があり、ヒアリング、プラン提案、見積提示と3週間後には「御社におまかせします。」とのことで、お会いして一か月でご契約をお任せいただくことができました。

前回は失注してしまったために、提案しきれなかった外構計画や、初めての和室二間など、地主さんならではの項目も契約後に学ぶことができ、私自身も新鮮な気持ちで契約後の打合せも参加できました。

大通りに面している立派な敷地をお手伝いしたので、できあがったあとは社内でも「お前が手伝った家かっこいいな!」「あの家のあそこってどんな素材使ってるの?」など、いろんな人からリアクションがあり、私自身お手伝いができたことをとてもうれしく思えました。


○この1棟から学んだこと

1、どんなお客様でも丁寧に接するのは営業マンとして最低限の一歩

一年目の最初の接客は、誰でも「精一杯丁寧に接客しよう」と思ってお客様と向き合っていたと思います。

それが2年,3年と年次が上がっていきますと、段々と気持ちがだれてきてしまう人は少なくないと思います。

慣れとやる気の無さから、「このお客様はイベント目的だろう」「このお客様はお金がないからうちでは建てられないだろう」といったお客様のことを勝手に上から目線で見極めていました。

しかし、このI様との出会いをきっかけに、経験浅い私の勝手な思い込みでお客様をジャッジせずに、まずはがむしゃらに接客して経験を積もうという気持ちになりました。

2、住所を書かないお客様の本気度は高い。

これはI様だけでなく、徐々に理解していったことなのですが、住所を書かないお客様は、「追われたくない」という心情の表われですから、計画があるために警戒している方である可能性が高いと理解するようになりました。

住所を書かないお客様=感じの悪いお客様ではなく、「チャンス!!」と思って張り切って接客をする習慣ができました。

3、自分を信頼して任せてもらう重みがすごい。

家づくりって、とても大きい買い物ですし、当然のように皆様は比較検討したくなると思うんです。

そんな中で、自分を信じて任せてもらうというのは、すごく大きな決断をされていると思います。

仮に比較したメーカー、営業マンがいたときに、彼らを上回る接客やご提案をしないと失礼にあたると思い、背筋を伸ばしてお付き合いさせていただくようにしています。


I様との出会いの後で、展示場で出会う一組一組のお客様に自分の全力をもって、接客をしようと思えるようになりました。

「初心忘るべからず」と、当たり前の格言ですが、重みのある言葉だなと思います。

日々の業務に忙殺されず、お客様にとっておそらく一生に一度の家づくりをお手伝いしているという緊張感をもって、住宅営業という仕事に向き合っていきたいと思います。


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