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Q:新字体と旧字体の流派があるのはなぜ?

A:姓名判断の方法が適切に検証されていないため、新字体を用いる流派も、旧字体を用いる流派も、自分のやり方こそ「最もよく当たる」と勘違いするからです。

●旧字体を用いる流派にも二つある

常用漢字には、戦後に簡略化されたものと、戦前の字体がそののまま残ったものがあります。簡略化された字体が新字体、戦前の字体が旧字体です。そしてこの旧字体を用いる流派には、二種類あるのです。

ここでは、新字体を用いる流派を「新字派」、旧字体を用いる流派を「旧字派」「康熙派」と仮称します。

たとえば、同じ「沢」の画数でも、新字派は「7画(沢)」とし、旧字派は「16画(澤)」とし、さらに旧字体で「さんずい」を4画にとる康熙派は「17画(澤)」とします。

ふつうに考えれば、7画、16画、17画の鑑定結果がどれも同じということはないでしょう。判断の材料が違うわけですから。たまたま結果が似ていることはあっても、一般的には異なっているはずです。

ところが、どの流派にも業界で知名度が高く、「よく当たる」と言われる占い師がいます。そして、どの流派にも「私の場合はよく当たった」という利用者(鑑定依頼者)が必ずいるのです。不思議ですね。

●新字派、旧字派、康熙派の対立の歴史

字画の合計数で吉凶を判断する方法は明治中期に作られました。その後、昭和初期までの約40年間はどの占い師も「16画(澤)」を用いていました。

ここで姓名判断の中興の祖ともいうべき占い師、熊﨑健翁氏が登場します。彼は「17画(澤)」を使い出したのです。[注1-2]

こうして旧字派と康熙派の対立が始まりました。それから約20年後、終戦を迎えて漢字の簡略化が進められ、新字体が作られます。いよいよ「7画(沢)」を使う占い師たちの登場です。

さて、2023年の現在、旧字派、康熙派、新字派の主張は対立したまま、すでに70年以上が経過しています。7画、16画、17画の鑑定結果が同じはずはないのに、どれが当たっているか未だに決着がつかないのです。いったい何が起こっているのでしょうか。

●「一番よく当たる」は思い込み

3人の鑑定依頼者、Aさん、Bさん、Cさんがいるとします。

Aさんは7画の占い結果が当たったと思いますが、16画や17画は外れたと思います。それに対して、Bさんは16画が当たったと思い、残りのふたつは外れたと思うのです。Cさんも同様で、17画が当たったと思い、残りのふたつは外れたと思います。

つまり、どの流派にも誰かしら当たったと思う人がいますが、全員が当たったと思うわけではない、というところがポイントです。これと同じことが占い師の側にも起こっているのです。

人間にはさまざな思い込みがあります。当たると思えば、当たった事柄だけが印象に残り、外れた事柄は見落としたり、すぐ忘れてしまったりします。当たると思えば、どちらとも言えない場合でさえ、当たったような気になります。

このようにして、旧字派も康熙派も新字派も、「やはり自分のやり方が一番よく当たる」と思い込むわけです。

で、結局、どの流派が一番当たるのかって? それはわかりません。誰も適切な検証をやっていませんから。見方を変えれば、どの流派も同じくらい当たらない、ということでしょうか。


============<注記>============
[注1] 明治・大正期の「さんずい」「くさかんむり」の画数
 この技法を創案した菊池准〔準〕一郎氏はもちろん、明治・大正期の占い師は誰もが「さんずい」は3画、「くさかんむり(旧字体は++)」は4画だった。
 以下は5人の占い師の著書から「源」「澤」「江」「藤」「芳」が含まれる鑑定例を選んだ。「さんずい」「くさかんむり」を何画にしているか確認いただきたい。

<出典>① 『古今諸名家 姓名善悪論 初編』(菊池准一郎著、明治26年〔1893年〕) 
② 『姓名判断 新秘術』 (海老名復一郎著、明治31年〔1898年〕)     
③ 『人生哲理 命名心法』 (小関金山著、明治40年〔1907年〕)      
④ 『神秘 姓名判断』(井上隆守著、大正2年〔1913年〕)        
⑤ 『命名真理 姓名判断』(林充胤著、大正2年〔1913年〕)                 
明治・大正期の「さんずい」「くさかんむり」の画数

[注2] 康煕派の元祖、熊﨑健翁氏の「さんずい」の画数
 姓名判断の業界ではその当時まで、こうした奇妙な画数の数え方は無かった。そこで当時の同業者、山口裕康氏は『名相と人生』の中で次のように批判している。

『漢字の「かんむり」 や「へん」 などについて、近ごろ珍説がある。「さんずい」 は水で四画、「りっしんべん」 は心で四画・・・ として漢字の画数を計算するというのである。実にばかばかしい話で、素人だましの盲説といわざるを得ない。』
※読みやすいように、文意を損ねない程度に書き換えた
<出典> 『名相と人生』(山口裕康著、東学社、昭和11年)


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