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技法の信憑性(4):天地人三才
●天地人三才の判断法
これは「数霊法」で用いる画数合計の一部だけで吉凶を判断する技法です。たとえば、名前が「又吉直樹」さんなら、又+吉、吉+直、直+樹の三つの画数合計(天格、人格、地格と仮称します)が判断の材料になります。
① 天格 : 又(2画) + 吉(6画) = 8画
② 人格 : 吉(6画) + 直(8画) = 14画
③ 地格 : 直(8画) + 樹(16画) = 24画
●天地人三才と五行説
古代中国には、この世界が天、地、人の三つの はたらき (三才)で成り立っている、とする考え方がありました。
そして、万物は木、火、土、金、水の五つの要素(五行)からできており、これらの要素同士は互いの力を強めたり(相生)、弱めたり(相剋)すると考えました。「天地人三才」の技法はこれを姓名判断に応用したものです。
日当たり(天の作用)のよい場所で、土地(地の作用)も肥えていれば、植物がよく育ちます。それと同じように、人間も天と地からよい影響を受ければ、つまり姓名の天格と人格、人格と地格がそれぞれ良好な関係にあれば、その人の運勢も盛んになるのでは、という発想です。
そして、天格、人格、地格を五行で表してみて、天格と人格、人格と地格が互いに強め合う関係なら「吉」だろうし、弱め合う関係なら「凶」だろう、というわけです。
●「三才の配置」の吉凶判断
天格と人格、人格と地格の関係が「三才の配置」です。この関係が良好かどうか調べる手順を、「又吉直樹」さんの例で見てみましょう。
(第一段階)
まず、画数の数字を下表のルールAに従って五行(木、火、土、金、水)に置き換えます。数字の一桁目で木、火、土、金、水のどれが配当されるか決まるのです。一桁の数字はそのまま置き換えればよく、二桁以上の数字、たとえば14や24なら4と同じで「火」となるわけです。
天格-人格 : 8(画) と 14(画) ⇒ 金と火
人格-地格 : 14(画) と 24(画) ⇒ 火と火
【ルールA:数の五行】 [注1]
数字の下一桁が 1 と 2 ・・・ 木
数字の下一桁が 3 と 4 ・・・ 火
数字の下一桁が 5 と 6 ・・・ 土
数字の下一桁が 7 と 8 ・・・ 金
数字の下一桁が 9 と 0 ・・・ 水
(第二段階)
次に、この関係が良好かどうかです。金と火、火と火それぞれの相性の良し悪しは、次のルールBで判断するのが一般的ですが、実際には流派によってだいぶ違います。
天格-人格 : 金と火 ⇒ 凶?
人格-地格 : 火と火 ⇒ 吉?
【ルールB:五行の相生相剋】 [注2]
木と火 ・・・ 吉 木と土 ・・・ 凶 木と木 ・・・ 吉 or 半吉凶
火と土 ・・・ 吉 土と水 ・・・ 凶 火と火 ・・・ 吉 or 半吉凶
土と金 ・・・ 吉 水と火 ・・・ 凶 土と土 ・・・ 吉 or 半吉凶
金と水 ・・・ 吉 火と金 ・・・ 凶 金と金 ・・・ 吉 or 半吉凶
水と木 ・・・ 吉 金と木 ・・・ 凶 水と水 ・・・ 吉 or 半吉凶
●「三才の配置」の吉凶は流派で違う
「三才の配置」の吉凶が各流派でどのくらい差があるか、下の比較表を見てください。A氏~E氏の5人はいずれも天格-人格、人格-地格の五行の組合せを3段階で評価しています。流派が違うと吉凶が逆転することもあるので、どの流派、どの占い師を信じるかは大問題です。
![](https://assets.st-note.com/img/1702626613741-dWC4LtsfyD.png?width=1200)
ちなみに、5人とも姓名判断や赤ちゃんの名付け本を出版していますが、少ない人で3冊、多い人は10冊以上です。この中から一人につき1冊ずつ選び、吉凶の評価を調べたのが上の結果です。
●昭和生まれの技法「天地人(or天人地)三才」
「天地人三才」を創案したのは、昭和初期に活躍した占い師の熊﨑健翁氏です。字画の合計数で吉凶を占う姓名判断(数霊法)は明治・大正の時代からありましたが、これを発展させた技法が「天地人三才」です。[*1] [注3-4]
明治・大正期の数霊法では、字画の合計数として、たとえば「又吉直樹」さんなら、又+吉(天格)、直+樹(地格)、又+吉+直+樹(総格)の3種類、または地格と総格の2種類だけが吉凶判断に用いられていました。
また、天格や地格といった名称もなく、地格なら「名の合数」、総格なら「姓名合数」等でした。
熊﨑氏は、従来からあった天格、地格、総格に、人格(吉+直)と外格(又+樹)を新たに追加し、5種類(五格)としたのです。ついでに、「~格」というクールなネーミングも考えました。そして、このうちの天格、人格、地格を古代中国の三才思想に結びつけるアイデアを思いついたのです。
この技法の特徴は、字画の合計数を五行に置き換え、五行の相性(相生相剋)によって吉凶を判断するところです。字画数の五行変換には陰陽説が、そして五行の相性判断には五行説が関係しています。
「数霊法」では字画の合計数がそのまま吉凶を表すので、陰陽説や五行説とは無関係ですが、「天地人三才」は陰陽・五行説の応用と言えるわけです。
●根本円通氏の「熊﨑式姓名学」批判
熊﨑氏はこの技法を秘伝としていたようですが、同業者の根本円通氏には軽視されただけでなく、暴露本まで出版されました。熊﨑氏はこの出版をなんとか阻止しようとしたのですが、失敗に終わりました。
この間の熊﨑氏と根本氏のバトルを中継ぎしたのが熊﨑氏の門人、永杜鷹堂(鷹一)氏です。[注5]
昭和6年12月、熊﨑氏の耳にとんでもない情報が飛び込んできます。「根本氏が『熊﨑式姓名学』の暴露本を出版するらしい。」 驚いた熊﨑氏は、さっそく出版の阻止に向けて動き出します。根本氏の説得に当たったのは、熊﨑氏の門人の永杜氏でした。[*2]
準備中の新刊書タイトルは『姓名学大綱』です。そこで、永杜氏はこう切り出しました。「『姓名学大綱』の宣伝ビラを撤廃して欲しい」「『姓名学大綱』の発行を見合せて欲しい」「この書の副題に『熊﨑式大運神の暴露!!』とあるが、「暴露」の二字を抹消して欲しい。」根本氏の回答は、もちろんすべて「NO!」です。
当時、根本氏は姓名判断の業界では異端的な人物でした。同業者の大半を敵に回して、得意の毒舌で一人ひとり、こっぴどく批判したのです。なかでも特に激しい集中砲火を浴びたのが熊﨑氏です。
『姓名学大綱』には「熊﨑式姓名学」批判が約140ページにわたって書かれています。「天地人三才」の技法も「大運神の霊動」という名称で出てきます。この技法に対する根本氏の批判を要約すると、次の2点になるでしょう。
① 「大運神の霊動は熊﨑式姓名学の奥秘である」などと勿体ぶるが、五行の相生相剋で吉凶判断するだけの ありふれた 方法だ。
➁ 吉運や凶運とされる天格、人格、地格の組合せでも、反証となる実例を
いくらでもあげることができる。まったく当てにならない技法だ。
●「天地人三才」の信憑性
さて、根本氏vs熊﨑氏の話題に偏りすぎたので、この辺で軌道修正しましょう。「天地人三才」の技法を用いる流派全般の信憑性はどうでしょうか。
同じ五行の組合せでも流派によって吉凶が異なるのは、すでに見たとおりですが、これ以外にも吉凶が異なる場合があります。実は、熊﨑式姓名学には字画数に影響する独特のルールがいくつかあります。
① 一字姓、一字名には1を足す
⇒ 林さんの天格は 1+ 林(8画)=9画
➁ 「さんずい(3画)」を4画にする等
⇒ 江(6画)川(3画)さんの天格は7画+3画=10画
③ 漢数字の五(4画)を5画にする等
⇒ 五(4画)木(4画)さんの天格は5画+4画=9画
「天地人三才」は熊﨑氏が創案したので、この技法を用いる占い師は①~③のルールを踏襲したらよさそうなものですが、実際には多くの亜流が出現しています。一字姓や一字名に1を足したり、「江(6画)」を7画にするのが気に入らない流派もあるわけです。
●森七菜さんの姓名判断は12種類もある!
調べたところ、①~③のすべてを認めない流派のほかに、一部だけ踏襲する流派が何種類も見つかりました。その結果、たとえば「森 七菜」さんの場合、天格と地格の組み合わせだけでも、流派の違いで以下の12パターンができてしまうのです。
まず、一字姓ですから、1を足すかどうかで(1)~(6) か(7)~(12) の2グループに分かれます。次に、漢数字の七を7画とするか2画とするかで(1)~(3) か(4)~(6) 、あるいは(7)~(9)か(10)~(12) の4グループに分かれます。
さらに、画数の取り方が新字派・旧字派・康熙派のどれかによって「菜」の画数も3種類になり、最終的には12パターンに分かれるのです。姓名判断的に複雑な名前の人は、占い師選びでそうとう悩みそうですね。
(1) 天格:1 + 森(12画)=13画、 地格:七(7画) + 菜(14画)=21画
(2) 天格:1 + 森(12画)=13画、 地格:七(7画) + 菜(12画)=19画
(3) 天格:1 + 森(12画)=13画、 地格:七(7画) + 菜(11画)=18画
(4) 天格:1 + 森(12画)=13画、 地格:七(2画) + 菜(14画)=16画
(5) 天格:1 + 森(12画)=13画、 地格:七(2画) + 菜(12画)=14画 (6) 天格:1 + 森(12画)=13画、 地格:七(2画) + 菜(11画)=13画
(7) 天格: 森(12画)=12画、 地格:七(7画) + 菜(14画)=21画
(8) 天格: 森(12画)=12画、 地格:七(7画) + 菜(12画)=19画
(9) 天格: 森(12画)=12画、 地格:七(7画) + 菜(11画)=18画
(10) 天格: 森(12画)=12画、 地格:七(2画) + 菜(14画)=16画
(11) 天格: 森(12画)=12画、 地格:七(2画) + 菜(12画)=14画
(12) 天格: 森(12画)=12画、 地格:七(2画) + 菜(11画)=13画
===========<参考文献>=========
[*1] 『姓名の哲理』(熊﨑健翁著、春秋社、昭和6年刊)
[*2] 『日本一力ある姓名学大綱:附・熊崎式大運神の組織、暴露!』
(根本円通著、神国霊理学院、昭和7年刊)
===========<注記>=========
[注1] 数の五行
数と五行(木、火、土、金、水)は次のような理屈で対応関係が決められている。
木 火 土 金 水
陽 甲陽 1 丙陽 3 戊陽 5 庚陽 7 壬陽 9
陰 乙陰 2 丁陰 4 己陰 6 辛陰 8 癸陰 10
[注2] 五行の相生と相剋
五行(木、火、土、金、水)の相生、相剋は次のような関係になっている。
<相生関係>
木生火・・・木の性質は火の性質を強める(木材は燃えて火となる)
火生土・・・火の性質は土の性質を強める(火は燃え尽きると灰(土)
になる)
土生金・・・土の性質は金の性質を強める(土(大地)は金属(鉱物)
を生み出す)
金生水・・・金の性質は水の性質を強める(金属の表面には凝結により
水が生じる)
水生木・・・水の性質は木の性質を強める(水は樹木を養う)
<相剋関係>
木剋土・・・木の性質は土の性質を弱める(樹木は根から養分を吸い
取り、土地を痩せさせる)
土剋水・・・土の性質は水の性質を弱める(土は水を濁す)
水剋火・・・水の性質は火の性質を弱める(水は火を消し止める)
火剋金・・・火の性質は金の性質を弱める(火は金属を溶かす)
金剋木・・・金の性質は木の性質を弱める(金属製の斧や鋸は樹木を切り
倒す)
[注3] 天地人三才の表記
熊﨑氏の著書には「天人地」と「天地人」が混在している。ここでは一般的な「天地人」とする。
[注2] 明治・大正期の字画数を使った姓名判断
その当時は「数霊法」という名称ではなく、「運数」とか「運格」と呼ばれていた。
[注4] 字画数の五行変換と五行の相性判断(相生相剋)
「天地人三才」の技法で字画数を三才思想に結びつけるアイデアは熊﨑氏の独創だが、基礎となる字画数の五行変換と五行の相生相剋による吉凶判断には先駆者がいる。高階鏡郭氏である。ただし、高階氏の場合、字画数と五行の対応関係は熊﨑氏と異なる。
※『発掘!「現代の姓名判断」の起源(9)』の[注4]を参照
高階氏は「一は水性、ニは火性、三は木性、四は金性、五は土性、六は水性、七は火性、八は木性、九は金性、十は土性」としている。その理由は、五行思想では「一、ニ、三、四、五」を生数とし、「六、七、八、九、十」を成数として、それぞれに水、火、木、金、土を配当するからである。
<出典> 『生児命名 姓名判断伝授 二百問答』(高階鏡郭著、明治45年)
[注5] 熊﨑健翁氏と永杜鷹堂氏の関係
永杜鷹堂(鷹一)氏は熊﨑健翁氏の門人で、熊﨑氏が主宰する五聖閣の講師を務めていた。ネット上には熊﨑氏と永杜氏の師弟関係を誤解して、間違った情報を掲載しているサイトがある。
両氏の関係、および永杜氏と根本氏の滑稽なやり取りについては、こちらを参照。⇒ 『発掘!「現代の姓名判断」の起源(11)<補足>』の[注2]
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