性的指向のグラデーションは無限である
突然だが、あなたは「性的指向」というものが、実に何種類あるかをご存知だろうか?
性的指向とは、ざっくり言うと「恋愛感情や性的な魅力を感じる対象」のことを指す。英語で言えば"Sexual Orientation"だ。
こういった話になると、異性愛や同性愛、LGBTという言葉を思い出す人が多いかもしれない。 実際に性的指向という言葉は、上記のような話題に付随して出てくるのが大半だからだ。
しかし、性的指向の意味を見ればわかる通り、この言葉は何もジェンダー論の専門用語というわけではない。好きなタイプだとか、好きなシチュエーションだとか、そういったごくありきたりな会話も、性的指向の話だと言っていい。
LGBTはもう古い!?
冒頭で問いかけた「性的指向は何種類あるか?」の答えだが、結論からいうと理論上「無限」である。
いきなり身も蓋もない答えだが、実際のところ性的指向を逐一ラベリングしていくと、何百何千という数にものぼるらしい。というのも、幾つかの特徴を分類してラベリングしても、必ず例外が現れる(むしろ例外のほうが多いこともある)からだ。
性的指向で有名な分類と言えば、異性愛(ヘテロセクシャル)と同性愛(ホモセクシュアル)、またはLGBTのなかに含まれるL(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシャル)が挙げられるだろう。しかしこれらは人の属性を表すほんの一握りにすぎない。
注意してほしいのは、これはあくまで人の属性のほんの一部にすぎないということ。ホモの人はホモだという属性ばかりが注目されがちになるが、その他の部分では共通することも多いはずだ。
料理で例えると、材料が一つだけ分かったようなもの。それだけでは候補が多すぎて、何の料理か推測できないのと同じだ。相手の性的指向だけで、相手のすべてを分かった気になるのは安易すぎる考えだ。
話を戻して、性的指向の種類はヘテロセクシャルやLGBだけに留まらない。比較的有名なものだけでもこれだけある。
ポリセクシャル(多性愛)
二つ以上の性を持つ人を愛する人(好きになる条件に性別が加わる。男性とトランスセクシャルの男性が好き、等)
オムニセクシャル(全性愛)
相手の性を認識したうえで、性別関係なく愛する人(好きになる条件に性別が加わらない)
パンセクシャル(全性愛)
相手の性を認識せず、性別関係なく愛する人(好きになる条件に性別が加わらない)
アセクシャル・エイセクシャル(無性愛)
他人に恋愛感情や性的欲求を抱かない人(恋愛として好きにならない)
ノンセクシャル(非性愛)
他人に恋愛感情を抱くが、性的欲求は抱かない人(好きになるが性的ではない)
引用 : https://ideasforgood.jp/glossary/pansexuality/#:~:text=パンセクシャル(またはパンセクシュアル,好き」という考え方である。
いかがだろうか。これらはまだ比較的メジャーな分類である。もっと細かく分類すればさらに種類は増えるが、正直なところ逐一分類していくとイタチごっこになるのがオチだ。
最近では「LGBTだけでは性的指向をくくれない」として、LGBTQやLGBTQ+、またはLGBTsという名称が使われることが多い。
「Q」とは自分の性的指向がわからない「クエスチョニング」と、「奇抜・不思議な」を意味する「クィア」という二つの言葉が含まれている。クィアはもともと英語圏で人を侮蔑するときに使われていた言葉だが、現在ではそれを逆手にとって「クィアで何が悪いの?」「性的指向はたくさんあるんだから、異性愛のあなただってクィアでしょ?」というように、ポジティブな使われ方をしている。
まだ世間ではあまり聞かないが、SOGIという言葉もある。これは"Sexual Orientation and Gender Identity"の頭文字をつなげたもので、「性的指向」や「性自認」を意味する。つまり、異性愛やその他の性的指向すべてを包括した言葉というわけだ。
LGBTだけだと、それに該当しない人にとっては「他人事」のように思えていたことも、SOGIを使うことによって「自分も含めたこと」として考えられるようにするのが狙いだ。
性的志向とはグラデーションである
「性的志向」は「色のグラデーション」で例えるとわかりやすい。
「性的指向」も「色のグラデーション」も完全な分断はされておらず、多くの「中間層」があり、それによって多様性を生みだしている。
「色のグラデーション」でも、ある一点の部分を拡大して見ると、さらに細やかな色の変化が見てとれるだろう。さらに肉眼では完全に同じ色のように見えても、色相・彩度・明度を数値化すれば微妙な違いが現れてくる。これは分割してラベリングするにはあまりにも多い性的指向とよく似ている。
異性愛+αで考えてみても……
性的指向のグラデーションと言われても、いまだピンとこない人もいるだろうか。しかし、このグラデーションという考え方は、多様性を可視化する表現として様々な例に応用できる。
先ほどから性的指向の種類について話しているが、同じ性的指向だからといって、共有できないものも多々あるだろう。
異性愛ひとつとっても、年齢、体格、パーツ、性格、仕草、価値観、ファッションセンスなどと様々な嗜好がある(紛らわしいが、ここでは好みを意味する「嗜好」である)。
「自分が好きな異性と、あの人が好きな異性のタイプは全く違う」だとか「ああいう異性が好きだなんて理解ができない」なんて話題は日常でもよく聞くだろう。
性的指向は理論上「無限」だといったが、それは性的指向も、このように無数の小さな指向・嗜好が組み合わさって構成されているからだ。 好きなタイプを100%共有できることが少ないように、性的指向をひとくくりにすることは難しいのである。
人間の思考は複雑なものをできるだけ単純化しようとする働きがある。それ自体はとても重要な働きではあるが、同時に多様で細分化した小さな事象を見えなくしてしまう。 他者を理解する上で、このグラデーションという考え方はあらゆる面で役に立つ。
※ひとこと
科学の世界では、「無限」は「不可能」と同意義の言葉らしい。まるで性的指向のラベリングが不毛であることを示唆しているようだ。
今回は記事の長さを考慮して大幅に内容を省略した。足らない記述もあったが、ジェンダーの話をするためには説明すべきことが多い。自分もまだまだ勉強中の身なので、ご意見があれば是非聞かせてほしい。
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