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隠れた名作本

拝啓

皆さんは〝森見登美彦″と聞いたら何を思い浮かべるだろうか。
「四畳半神話大系」「夜は短し歩けよ乙女」「有頂天家族」
おそらくはこの3タイトルが一般的だろう。無理もない。この3タイトルはアニメ化されており、普段本を読まないという人でもいずれかのアニメは見たことがあるのではないだろうか。「四畳半神話体系」に至っては、続編の「四畳半タイムマシンブルース」が2022年9月に劇場アニメ公開されるほどの人気ぶりである。
今回はそんな普段本を読ない人に向けて、この著者の隠れた名作を1つ、可能な限りネタバレなしでご紹介しようと思う。尚、この投稿がnote初投稿なので稚筆はご愛嬌でお願いしたい。

今回紹介したいのは↓

「恋文の技術」である。先に言おう。この本、本編は339Pある。文庫本としてはまぁまぁボリュームがある。何故そのような本を普段読書しない人に向けて発信するのか。

安心召されよ。

ちゃんと理由がある。まずはカバー裏のあらすじを下記に引用しよう。

「京都の大学院から、遠く離れた実験場に飛ばされた男が一人。無聊(ぶりょう)を慰めるべく、文通修業と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。文中で友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れるが、本当に想いを届けたい相手への手紙は、いつまでも書けずにいるのだった」
※「無聊(ぶりょう)」とは退屈で気分が晴れない様のこと。

如何だろうか。実に陰湿である。森見登美彦氏の作品において、青春と童貞を拗らせた偏屈青年は食卓における白米が如く、なければならない存在である。
主人公「守田一郎(もりた いちろう)」もその例に漏れず、大学院に進むほどの学力を有しておきながらモラトリアムな大学生活が祟り、研究室を追われ僻地の研究場に送り込まれることが物語の始まりである。
己が怠惰が原因で左遷されたにも関わらず、退屈と宣い、退屈凌ぎに手紙を書きまくり、果ては妹にまで手紙を送りつけ説教を垂れるくせに、意中の女性には手紙を送る度胸はないおおよそ誉めるべきところがない男である。


ここまでこき下ろして何がおすすめか。そこがこの小説の妙だ。

この小説、全てが守田一郎の手紙の文体なのである。所謂、神視点や説明文のような〝小説″然とした文が一切なく、読者はひたすら守田が友人・知人に宛てた手紙を読んでいる状態に陥るのである。

皆、人の手紙を除き見るのは好きだろう? この変態さんたちが。

軽妙且つ老滑な守田の文によっておおよそ相手の反応が窺い知れるのもこの小説のギミックの素晴らしいところだ。ここまで小説としての基本の形からかけ離れていながら、物語としてしっかり成立しているのである。手紙の相手達も曲者揃いで、守田の文で窺い知れる部分だけでも、むせ返るほどのキャラクターの濃さである。

どうだろう?この愛すべき偏屈男守田の文通修業と恋路の行く末が気になってきただろうか?
少しでも興味を持たれた方は、是非ともこの小説を手に取ってみて欲しい。電子書籍ではなく、絶対に文庫本を買って。守田が、友人たちがそうしたように、自らの目で文字を拾い、自らの指で紙のページを捲ってほしい。必ずや、一気読みしてしまうだろう。
もちろん、冒頭に挙げた四作品も大変オモチロイので是非。

それではこの辺で。

                                 草々頓首

              令和四年六月捨六日  天道総司朗 読者様足下


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