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雀と煙とクッキー

青い空の下、某コンビニ店の前で煙草をふかしていた。缶コーヒー片手に一本目が吸い終わり、少し逡巡した挙句、二本目を取り出し煙草の先に火をつけた。

そのコンビニは、店外に三から四席ほど椅子が並べてある。それが喫煙者に向けてなのかは分からないが、そこでおじ達が煙草を吸っている。そのときも私の隣に一人のおじが来た。

そのおじはポケットから粉々になった「なにか」を取り出し、車を止める場所にある縁石?みたいな出っ張りの所、そこに山を作るようにそれを撒いた。「なんだこいつ」それを見た私の心の声である。

それは黄土色でクッキーみたいなやつ。煙を吐き出しながらそれを観察していると、雀が数羽飛んで来て、それを食べている。

「これなに?」気になる。非常に気になる。気になって仕方がない。このおじは何を撒き、何がしたいのか。気になったものに対して、予想を立てる。これは皆がしていることだろうが、私はその答え合わせまでやりたくなる。自分の答えが正解なのか、気になる。

人間の探究心というものは恐ろしいもので、煙の次に吐いたものは、隣に座るおじへの問いかけであった。

「なに撒いたんすか」

やってしまった。なにを「やってしまった」かは分からないが、見知らぬおじに突然話しかける行為自体が恐らく「やってしまった」ことなのは分かる。以下、それ以降のおじとの会話を載せる。

「このコンビニに売ってるクッキーをな、砕いて撒くんよ。雀専用や」
(予想的中。クッキーだった。ちなみにコンビニに売っているクッキーは雀用ではなく人間用である)
「そうなんすね、雀めっちゃ寄ってきてますね」
「そうや、たまにカラスも来るんやけどな。それは杖で追っ払うんや」
(やってることがちゃんとおじ)
「雀かわいいすね」
「でも最近暑いから、雀の集まりも悪いわ」
「…暑いっすもんね最近」

おじさん無視。

返答ミスったか。少し反省するが、見知らぬおじとの会話で反省するほど暇では無い。またおじが喋り出す。

「でも毎日見てるけどな、(雀の)区別はつかんわ。観察力が足りんな」

なんとも向上心の高いおじ。伊達に毎日雀にクッキーをあげているわけではないのだろう。

しばらくお互い無言。クッキーのくずを食べる雀を見守る時間。

その後は「学生さんか?」とか「府立大?優秀やなぁ」とか聞かれ、雀を二人で観察しながら喋っていた。二本目も吸い終わり、おそらく二度と会うことのない雀おじさんに「また」と言って吸殻を捨てた。

締めの言葉などない。教訓もメッセージ性もない。だたの私の日常の一コマである。チュンチュン。

おじが撒いたクッキー(雀抜き)

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