夢の住人
自転車に乗っていると、季節が変わったことを感じやすい。ペダルを一漕ぎすれば、季節の風が私を吹き抜けていく。そういう時は決まって、少し涙が出そうになる。
指先が凍りそうなほど寒い中、買ってもらったカプチーノを包むように握る。中身が減りすぎないように、ゆっくりと飲んでいた。小学校低学年の僕には少し苦かったけれど、温かい飲み物が手元にあることが有難かった。
パーク内の照明が一斉に落ち、煌びやかな音楽とともに、キラキラのイルミネーションに彩られたエルモのフロートがゆっくりとこちらに近づいてくる。
僕はUSJが好きだった。小さい頃からずっと。乗れるアトラクションは多くはなかったが、文字通り非日常の空間で、小学生の時に「帰りたくない」と家族の前で泣き出したことがある。大きな門を抜けてすぐに涙が溢れて、近くのベンチにしばらく座っていた。今持っている寂しいの感情は、きっとこの時と同じだ。
エルモの次はスヌーピー、キティ、そして童話のキャラクターと続く。その時は冷たい夜風に吹かれながら、夢の中にいるような感覚だった。カラフルな光で描かれたキャラクターを見送っていると、パレードに相応しい衣装を着たエンターテイナーが数人現れる。彼らの格好は様々で、てんとう虫やキノコ、花、孔雀、フラダンサー、妖精などだ。
そんな中、ティーポットを持ったエンターテイナーが来た。アリスのお茶会をテーマにしているようだ。そのうちの一人が、ぼーっと夢の世界を堪能していた僕に近づいてきた。夢の住人が間近にいることにオドオドしていると、彼は僕が持っていたカプチーノの容器に飲み物を注ぐように、ティーポットを傾けた。一瞬だったが、夢の住人だったエンターテイナーが目の前まで来て、僕にアクションを起こした。それが衝撃の嬉しさで、今でもよく覚えている。
きっと今年もカプチーノを両手で包み、優しいミルクを啜る。そして苦味が口に広がった瞬間、この夢を思い出す。