思い出って戻りたいのこと

 今日はとてもいい日だった。久しぶりにぐっすり眠れて、起きたのは昼前。そこから一時間ほどベッドでゴロゴロして、やらなきゃいけなかったことの一つであるパスポート申請を市役所でしてきた。市役所でそんなことできるようになったんだね。十年前は、わざわざ谷町まで行って手続きをしなきゃならなかった。
 
 家に帰ってご飯も食べた。それからふうと一息ついても、太陽はまだ高く、今日を終えるには早すぎる時間だった。僕はまだまだ現役で着れる高校時代の体操服を着て、家の前の公園に駆け出した。とにかく走りたかったのだが、蛍光色の黄色いデザインで少し恥ずかしい。
 春の公園は穏やかだ。老若男女問わず、咲き始める桜や暖かくなり始めた世界に会いにくる。僕もそういう春が好きだ。公園の広場では、小学生とおじいちゃんが輪になって笑い合っていた。そのうちの一人の少年はもう半袖で、額と頬に汗を滲ませて、地面に寝転がっていた。

 中学生のとき、三年間陸上部にいた。百メートル走を専門にしていて、結構色んな大会に出たり賞をもらったりしていた。当時はとにかく楽しんでいて、仲間との練習は、今も鮮明に思い出せるくらいに濃密な時間だった。全然戻りたい。また砂まみれになって、汗だくになりたい。

 二十歳になって、戻りたい日々が増えた。そういう日々が多すぎる。「あの時こうしていれば」って感じる戻りたいとは別で、ただ楽しかった思い出になっている日々だ。
 でも、戻りたいということは正解なんだと思う。戻りたいと思えるほどに、当時が幸せだったということだ。その時あった「今」を満足に過ごせたということだ。過去の自分、よくやった。この戻りたい日々が、走馬灯になるのだろう。
 まだ八十年、人生が続くとして、終わることがたくさんあるって突然不安になることがあった。でも、終わって「戻りたい」と思えることは幸せなことなのだ。まだまだ続く「今」を、なるべく自分のままでいようと思う。半袖の少年は、背中にも汗を滲ませていた。



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