少し不思議

 エレベーターの扉が開くと同時に、ポップコーンのキャラメルの匂いが鼻から肺までを一気に満たした。映画館に来たのは半年ぶりくらい、やっぱこれだなって思った。暗さも、途端に静かに感じるロビーも、床の絨毯を踏み締める感覚も最高だった。

 前章後章に分かれた映画を観ることにしたのは初めてかもしれない。今日観たのは前章のみだ。突然東京の上空に未確認飛行物体が現れ、世界がやばいことになる話だ。「ドラえもん」にめちゃくちゃ似せたオマージュキャラもいて、かなりヘンテコな物語だったけど、とても楽しく観ていられた。だが率直に内容を忘れてしまいそうで、大変困っている。なぜなら後章の公開は2ヶ月ほど先だ。2ヶ月もある。春先の2ヶ月はあっという間かもしれない。新しいことがたくさんだから。
 でもそれでは困る。映画は完結を見守らなくてはならない。これは「真夜中乙女戦争」で学んだことだが、映画は悲しい。鑑賞者は映画に対して何もできない、ただ観ていることしかできない。それが映画というものなのだ。だから、今日の映画は「おー?」って気持ちで終わってしまった。元々の作風が持っている面白さに加えて、尻切れ蜻蛉のようにエンドロールを迎えられたせいである。

 映画を見た後はいつも、色んなことが頭の中をぐるぐる回る。でも今日は「早く後章観たすぎる」でしかなかった。シアターを出たのに頭が回っていなかったのは少し不思議な感じだった。そういえば、「ドラえもん」を描いた藤子・F・不二雄さんもSFのことを「少し不思議な」って言ってたっけ。同じだ。映画館を出ると、世界は春の空気に包まれてきたことを思い出した。とても暖かくて思わず空を見上げたが、そこには20回目の対面となる春があるだけで、UFOなんてものはなかった。


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