金蝶饅頭の理想
金蝶饅頭の基本
●酒種
酒種とは糀菌の発酵を利用した生地。
発酵の力を利用して膨らむと同時に、香りや風味など奥深い味を醸します。
●こしあん
漉し餡は、字のごとく、漉すという手間がかかっています。なめらかな舌触りのために、大量の水も必要になります。
昔の献上菓の類に、こしあんのお菓子が多いことは納得の出来事です。
●薄皮の蒸しまんじゅう
酒種のお饅頭は結構全国多々ありますが、金蝶饅頭の白黒(餡が透ける部分と透けない部分がまばらに共存する)の独特な薄皮は大きな特徴の一つです。
甘辛ピン
最近はあまり使われませんが、お酒の味の表現として甘辛ピンという言葉があります。甘口、辛口、ピン口・・・ピン(!?)
甘い、辛い、その先のピン。もしくはその奥のピン。
切れ味を表すとか、味の五原味(甘み、酸味、苦み、塩味、旨み)の調和を表すとか言われますが、酒種も同じ世界線にあると理解しております。
いずれにしても、その深さに日本人の味覚に対する感性の長を見て取れます。
地域の味
前にどこかで、神社が建てられる場所はその土地の菌が多い場所であるというようなことを聞いて、なるほどと思ったことがある。
またそれは、二人の天才、小林秀雄と岡潔の対談で、お酒の地域性について話してみえた内容につながるように思います。
地域の味はその土地に暮らす菌と人によって個性が現れると言えるのではないでしょうか。言ってしまえば当たり前の事ですが、、
地域の文化に育まれた当店の金蝶饅頭ではそれを「ぬくもりの味」と呼んでいます。
永い歴史
基本的な作り方は何一つ変わらなくても、江戸~令和へ、時代の背景や当主の考え方などあると思いますが、金蝶饅頭のその姿の変遷は、地域と時代の顕れだったような気がします。
金蝶饅頭の変遷と心
当家では、お饅頭には心があると伝えられています。
私たち人間に白黒の二面の心があるとするなら、お饅頭の見た目に例えると、その割合において江戸末期の創業当初は、黒4:白6くらいだったものが
四代目店主の時、高度経済成長の波と、機械化の課題解決のための膨張剤添加による偶然もあり黒2:白8に。結果的に当店の金蝶饅頭のふわもち食感は、ぬくもりを感じやすく、お店の特徴の顕れになったものと存じます。
近年においては、欲深く見せかけの理想高く、真っ白な心を目指し、
時に必要以上に、黒い心にかき乱されていました。
倒産前に黒1:白9を目標に掲げるも、夢半ば潰えました。
倒産、復活を経て
鈴木代表の御心、そして地域の御心とご縁に恵まれ、店主として、そして初めて職人として、金蝶饅頭に向き合う毎日。無為自然を見出す瞬間にも度々出会い、162年目にして金蝶饅頭の本質に辿り着いたと思えます。
真心を込めた結果こそがその割合。白い心も黒い心も認めつつ、調和をもたらすことが目標になっております。およその割合はやはり二黒八白ですが、蒸しあがりのお饅頭が微笑んでいるかどうかを最も大切にしております。
調和のために
未だに戦争はなくならないし、虐めも自虐もなくならない。
ましてや大切な家族や自分の感情さえままならない毎日。
そこで調和を求める側には技術が必要。
だって相手は調和を意識していないのだから。
その課題に取り組む第一歩として、金蝶饅頭の心の中に何か役立つものがあると信じています。
携わる職人として、その技術を更に磨いていきたいと思います。その過程で必然的に心も磨かれるのだと信じて。
金蝶饅頭の理想 お菓子としての調和
今回の復活で膨張剤を止めました。酒種とじっくり向き合うことで自然に膨らむ力が引き出せたからです。
酒種の甘辛ピンの味わいと漉し餡の調和を実現するために、
少し酸味を効かせた酒種に調整しております。
酒種を味わっていただきたいので、薄皮でありつつも、生地の濃淡が出るように少しダレ気味に包み蒸しあげています。
もち米由来の酒種と膨張剤不使用にて、モチモチでフカフカな食感。
調和が生み出すぬくもりの味。白黒の内包を許容する豊かな饅頭の心。
162年の時を経て、結果として辿り着いた境地です。
とはいえ、ままならない毎日。まだまだ修行は続きます。
真の理想は世界平和。そのための進化と向上を目的として日々お菓子に向き合ってゆきます。
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