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[短編]テーマ課題「狂わす神、狂う人」①

テーマ おうし座、事務所、狂人

「なぁ、神様って信じる?」
人の部屋に上がり込みダラダラとスマホ弄っていた誠が突然の話題を
切り出す
「え?なに急に?なんか…誘われている」
誠のことだ。ありえない事ではない。知り合いに中でビジネスの話や
ツボをかわそうとしてくる人がいるとしたら、間違いなくこいつだ
気づかれない程度に警戒をする
「いや、そういうんじゃなくて」
「びっくりした。その切り出し方やめろよ。急に人ん家押しかけてきて」
安心は見せるが警戒はとかない
「悪い悪い」
誠はスマホを置いて座り直した
「ちょっと、考えることがあってさ」
改まった雰囲気を出す誠に、思わず私も聞く体勢になってしまった
「なに?なんかしでかしたの?」
「んー…。それは今じゃない」
なんなんだこいつは自分から質問をしておいて、なぜそちらに主導権があるのか
自分勝手に程がある。
「まず、答えてくれ。神様はいると思うか?」誠がもう一度問う。がそんなことは分からない。
「まぁ、いたらいいなとは思うよ」無難に答える
「その神様は、悪いことをしても許してくれるかな?」
なんとなく、意図がつかめた。誠は気が咎めるようなことをしてしまい、良心の呵責を少しでも鎮めるため。脈絡もなくこんな質問をしてきたのだ
そうと分かれば主導権はこちらでコントロールができそうだ
「なぁ、人文学部のお前の意見を聞かせてくれよ」相当切羽詰まっている様子だ
うるさい
「俺の専攻は言語だ。神学はやっていない」
上手くやれば、これを口実にこいつの押し掛け訪問を辞めさせることができるかもしれない。こちらもレポートに追われているのだ。毎日こいつにかまっている暇はない。
だが、何があったかを直接聞けば相手は逃げるかしれない
相手の相談に乗るフリをして、餌を垂らす
「事の程度と神様によるんじゃないか?」
「神様による?」首を傾げる誠
食いつた!
「神様によるってどういう意味だ?」
「お前がいう神様はどの神様だ?」
「神様っていっぱいいるの?」
社会情勢を何も知らない奴め。学校教育で社会科の授業を受けてこなかったのか?
よくセンター試験をパスし大学に入学できたもんだ。

「神学は学んでないから、俺のイメージで話すぞ」(猿でもわかるようにな)親切を装って胸の中でつぶやく
私は誠に体を向きなおして尋ねる
「お前がいう神様は悪事を“祟る“神様。“裁く“神様か。どっちだ?」
「タ…タル?サ…バク?」誠はさっきよりも大きく首を傾けている
「触らぬ神に祟りなしっていうだろ?」
「うん」首を縦に直し頷く
「祟る神様なら、もう遅い。だって触っちゃってるもん」
「は!」やっと、祟るの意味を理解したようだ
「でも、裁く神様なら、お前が悔い改めるなら、許しを与えてくれるんじゃないか?
もし、お前が悔い改めないなら、然るべき時に罰を受ける」
私の待つ日本と欧米の宗教感のイメージなだけだが
「なるほどな」ちゃんと伝わっているのか。硬直したまま動かない。このまま神父様を演じて彼の懺悔を聞こうじゃないか
「なんにしろ。相談に乗るから、話してみ…」
「他は?」
「他?」そっちの気だったようだ
「他ってなんだよ?」意図が分からず聞き返す
「なんか怖くならない神様」
「都合のいい事言ってんじゃないよ」
「救われたいんだよ!!」
「じゃあ、悔い改めろよ!!!」思ってもいない声量でツッコんでしまった。お隣さんが留守のことを祈る。誠は私の様子を察したのか。さっきまで静かなトーンで続けた
「俺は、今、気持ち的に救われたいんだよ」
「お前…。法には触れてないよな」なんだか弱々しく見えて心配をしてしまった。
「それはないよ。多分」
「多分てなんだよ」
「いやー、さー…」意図していなかったが、釣れるか?私は彼の口に注目し彼の弱みが出てくるのを待つ
「受けるかもしれない罰を考えながら生きるのって辛くない?」
出てこなかった。
だが、その気持ちは分からないでもない
「だから、最初から悪い事をするなって話なんだろ。きっと」
「でも、したかもしれないからさー。もちろん、それは悔うよ。悔うけどさ」
「悔うってなんだよ。文法も改めろ」
「今求めているのは、神様だってそうなんだから。自分も大丈夫!みたいな神様」
都合のいいの範疇を超えている。
「お願いだよー。助けてよー」誠はなきそうな顔で、私にしがみついてくる
「やめろよ。俺から秘密道具はではないよ。でも…」
「え!?」先ほどの涙を利用し、ウルウルの目が輝く。男のウケの良い女子はこれを巧みに使うのだろう
「やめろ。きもいから」男からの男だと逆効果だ。私はそう言って突き放す
全くなんの駆け引きをしているのか。馬鹿馬鹿しくなってくる
「でも、なんなんだよ」言いかけた続きが気になるようだ。すでにどうでも良くなってしまったが、乗りかけた船だ。弱みを握れたら儲けもん。話を続けよう

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