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『PERFECT DAYS』音楽が物語る世界


「PERFECT DAYS」をやっとの思いで観て
「SWITCH」12月号を少しだけ覗いた。

ヴィム・ヴェンダースの映画は観た後にその残像が心の中に留まり続けてしまうから不思議だ。

『パリ・テキサス』スライドギターの音色。

『ベルリン天使の詩』詩的な語り。

今回は、何と言っても60〜70年代の音楽が素晴らしかった。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド
ルー・リード
アニマルズ
パティ・スミス
ローリング・ストーンズ
etc

音楽にストーリーを語らせている。

主人公、平山の言葉は極端に少ない。
が、無言で心の内世界を表現してしまうから役所さんはすごい。

ストーリーが動くのは、姪ニコが出てくる辺りから。(あのアルバムからの命名)

平山が捨てた世界と今ある世界を橋渡しする重要な人物。

彼女が平山のカセットテープを見ながら
「Spotifyにあるかな?」と聞く。
もちろん平山には何のことかわからない。

現実世界のSpotifyにはちゃんとサウンドトラックが用意されているという妙。

もうひとつ、ニコが平山に質問する。
「この川の向こう側には海があるの?」

ここに『ベルリン天使の詩』のオープニングに流れるペーター・ハントケの詩を思い出す。

「子供は子供だった頃

 腕をブラブラさせ

 小川は川になれ

 川は河になれ

 水溜まりは海になれ 」

ハントケの詩の暗喩とモノクロの夢がベルリンと繋がる。

ヴェンダース監督は、平山を笠智衆の配役名になぞらえて使用したのだとか。

そうか、この作品もまた小津安二郎へのオマージュでもあるのか。

平山は言う。
「この世界は、繋がっているようで実は繋がっていない。」

現代社会の問題に言及しつつも、その論拠となる描写は弱い。

過去を捨てた男と過去におとしまえを付けに来た男が初対面で影踏みするだろうか?

全てが綺麗すぎた印象が残る。

仮に人間の光と影を描写するなら、父との確執を深掘りするとか、主人公の業みたいなものを描写するなど…悪のような影が表現されたなら人間的な深みを感じられたのかもしれない。

しかしそこは、私の見当違いなのかもしれない。平山さんは東京に降りた天使なのだから🪽

平山のルーティーン生活を音楽が物語る静かで丁寧な詩的世界。

ニーナ・シモン「Feeling Good」の曲とともに

その残像が今でも心に残るから不思議だ。

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