ずっと使い続けたシャトルシェフ

 大学生になって実家を出た。家電や調理器具は現地調達のつもりだったが、1つ持っていったものがある。納戸の棚の奥で、箱に入ったまま眠っていたシャトルシェフだ。どこかからもらったものの、祖母や母にはいまいちピンとこないものだったらしい。

 寮生活の大学生にとって、シャトルシェフはすばらしい道具だった。何しろ、共用の台所は4〜5人に1つガスコンロがあるだけだったのだ。夕飯時になると、それぞれがガスコンロの前に立ち、手早く調理することになる。お互い、長く使うのは気が引けた。
 多くの友人が部屋で調理できるように電子レンジやカセットコンロなどを購入する。しかし、私にはシャトルシェフがあった。部屋で切った野菜や肉と水、スープの素を入れた鍋をコンロに置き、しばらく沸騰させたら保温調理。小さな炊飯器(これは購入した)でご飯を炊くと、これで夕飯のできあがりである。
 味は薄味にしておいて、ポン酢、タバスコ、キムチのもと、豆板醤、ラー油のどれかを後からかけて食べればいい。手抜きだけど栄養バランスはよい。
 今、こうやって思い出すとちょっと呆れてしまう。こんなことをやっていたのに一人前に自炊している気でいたのだから。

 大学を卒業して社会人になってからも、シャトルシェフは優れものだった。大学時代よりも進歩したというべきか、ご飯が炊けるようになった。週末にシャトルシェフで炊いたご飯を冷凍し、これを解凍しながら1週間を過ごした。やはり褒められた生活ではない。

 あれから数十年たった今もシャトルシェフは現役である。メニューは広がった。シチューやカレーも作るし、ゆで鶏、ゆで豚も作る。黒豆も煮る。甘酒作りにも便利だ。

 それにしてもシャトルシェフに申し訳ないと思うのは、こんなに愛用していながら、私は一度もシャトルシェフを購入していないということだ。高校卒業時に納戸から出てきたシャトルシェフは今でも現役である。
 この文章を読んでくださった方、どうかシャトルシェフをお試しください。本当に良いものです。

 

 


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