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「それ、あなたの感想ですよね?」(~言語技術講師の日々~)

授業で中学生のA君に言われて、ぎょっとした一言です。

この言葉は、黎明期からインターネット文化を作り上げてきた、「ひろゆき」さんの言葉で、テレビの討論の中で発せられたものだと記憶しています。
今の中高生にとっては、インターネットの巨大掲示板をつくった人、というよりも、いろいろなことをよく知っているYoutuber、という認識のようでした。あらゆる問題に対して歯切れのいい回答をしてくれる、ということで人気があるようです。

「それ、あなたの感想ですよね?」
私もその言葉は知っていたのですが、実際に発せられた場から切り離され、物語の解説をしていた自分に突然投げかけられたとき、驚いてしまったのです。
私は、「うん、そうだねえ……」とあいまいに答えるので精一杯でした。

思春期に入った中学生は、メディアの影響をかなり強く受けます。
たくさんの作品や、芸能人や、インターネット文化に触れ、今の自分や現実を相対化していきます。だいたい中学2年生くらいにピークに達するその試みを「中二病」と言ったりもしますね。
その時期は、話す内容だけでなく、しゃべりかたも大きく影響されます。ちがう生徒さんですが、ずっと「ゆっくり実況」のような棒読みで話していた子もいました。

言語技術の講師という立場からすると、それは、「私とあなた」の「場」にふさわしくない話し方だなあと感じます。
けれど、まだ「私」が揺らいでいる時期の子にとっては、その「場」を読むことが難しい。だから、なにかのキャラになりきることで、その場を少しでも安定したものにしたいと試行錯誤するのは、理解できることなのです。

特にA君は、教室に通い始めてからさほど日がたっておらず、講師との距離感も手探りの状態でした。
そんな中、「ひろゆき」さんというキャラが、安心して他者に向き合う力をくれたのかもしれません。
他者の中になにか価値のあるものを見出すことは、成長につながる大切な視点です。

言葉は、関係の中で紡がれます。そして、その関係の中で「私」がつくられます。
言語技術の講師として、教室にやってくるA君にできること。それは、A君が、他の誰でもない、自分自身をつくっていくサポートをすることです。だから、キャラをつくらなくてもいい、安心できる関係を構築することが、私たちの目標となります。

そしていつか、お互いの、自分だけの「感想」を述べ合うことができればいいなと思っています。

リテラ言語技術教室 岡本ようすけ



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