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まだ明るい、夕方5時


チャイムがなって、5時になったことに気が付く

子供の頃、この時間にはちょうど遊びが佳境を迎える頃だった
1時間ぐらい前に食べたおやつがエネルギーになって
テレビの画面で競り合う自分のキャラクターの接戦に、私たちは跳ねたり、きゃーと叫んだり、おお盛り上がり

決まって毎回そんな時に、試合終了を知らせるゴングのように、というより、「そろそろかえりなさ〜い」という聖母の囁きのように、チャイムはなってしまう。

チャイムがなれば、夫の愚痴にきゃっきゃとたのしそうなお母さんたちだって
「あら、そろそろ帰らなくちゃ。夕飯の支度をしないと」
ということになってしまう。

この、「5時の呪い」に、私は何度だって立ち向かってきたのだが、
ただ、イヤイヤと駄々をこねて効果があった試しはないので、最終的には
       「え〜だってまだ明るいじゃん、!!」
という、実にシンプルで、意外と説得力のある言い訳に落ち着いたのだった。


「三寒四温」な春の陽気に、たやすく気分も振り回される20歳の私は
曇りの鼠色の朝にがっくりとしたのはけさのはなし。
だけど、用を終えて帰る午後5時
どんより雲を作っていたはずの薄い霧が、夕日をやさしくぼやかして
パステル色のうつくしい空を作ってくれていた。


おねえさんになったいまも、まだ明るい夕方5時に、なぜか心をなびかせている

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