「52ヘルツのクジラたち」
52ヘルツのクジラたち
それは、誰にも聞き取ることのできない「52ヘルツ」の声で鳴く鯨たちのこと。
貴湖は恋人の前で刃を翳した。その刃は、自らの腹に鎮まり消えない傷となって今も残っている。
傷が疼くとき、気づけばいつも呼んでいる「アンさん」の名。彼は貴湖に「魂の番」という言葉を教えてくれた人だ。彼は、1人で暮らす家の浴槽で、手首から血を流し1人で死んだ。
2人の愛する人を傷つけてしまった自らへの悪寒に耐えられず、誰も自分を知る人のいない、かつて祖母が住んだ辺鄙な港町へ貴湖はや