御本拝読・「僕はどうしても捨てられない」おいでやす小田

自分が本紹介するの一発目にふさわしい本

 絵本生まれ海外児童書育ち、中原中也に恋をして、志賀直哉を敬愛する私。現代の作家さんだと小川洋子さんや宮部みゆきさん、歳が近い作家さんだと深緑野分さんが好き。硬めの文体やテーマが好きで、精神の美しさとか静謐な世界観が好き。
 そんな私がここでブックレビューを書く一冊目は、お笑い芸人・おいでやす小田さんの「僕はどうしても捨てられない」。テレビで観るおいでやす小田さん(以下、小田さん)は、大声と怒り芸、リアクションの大きさが印象的。その小田さんの本、とっても私の好きなテイストであったのです
 図書館だと914、もしくは779に分類?個人的には159とかに置いても面白いと思う。

「捨てられない」

 必要な情報やモノはできるだけデジタルやレンタルでまかない、極力所有物を減らすミニマリスト。その対極が、あれもこれも捨てられなくて部屋にため込み、汚部屋や汚屋敷の主となってしまう人。本のタイトルを見ると「小田さんがまさかそっちの人だったの?」とちょっとドキっとしましたが、そういうわけではなさそうです。
 小田さんの人生の中で出会った、たくさんのモノたち。そして、相当の年月を経ても未だ共に歩み続けているモノたち。そのモノに対して、「僕はなぜこれを捨てていないのか」と一つ一つ写真とエピソードで語っていくという本です。
 まず、小田さんが捨てていない理由に、そのモノに対する深い愛情はあまりないのです。思い入れや愛着のある微笑ましいモノやエピソードも多々あるのですが、基本的には「捨てる理由がないから捨てていない」のが理由です。
 ドライというか、淡々としていますが、それは一貫しているのです。堂々とすらしてらっしゃる。
 まあ、中には「今すぐに捨ててください(衛生・安全的に)」なモノも混じっていますが……。
 
でも、全体的に何故か「田舎の実家の居間感」があって、なんか安心感があるのです。汚部屋晒しというよりは、おかあちゃんの押し入れ掃除を見ている感じ。

芸風と人柄

 私が小田さんが気になったのは、R-1・M-1の時の小田さんの周りの人たちの反応がきっかけ。私の好きな京都のロックバンドやベテランの芸人さん達が、こぞって「良かった!頑張れ!」と小田さん猛プッシュ。ここまでこの人達を熱くさせる小田さんとは……と。
 基本的に、芸事に本人の人柄は関係ないと思っています。人柄が最悪でも、芸事が抜群に上手でちゃんと仕事を務めていればOK。人柄は最高でも、残念ながら芸事では食えないという人も大勢いらっしゃいますし。まあ、犯罪とかエグいスキャンダルあったりすると応援しづらくはなりますが。
 特に最近、漫才コンビや音楽グループなら仲良し、タレントさんなら良い人、というキャラがダイレクトに売上に繋がっているようです。それが本当に人柄のままなら問題ないですが、難しいよな、ともうすぐアラフォーの社会人十五年生としては思います。
 で、小田さんの芸風って、大声で怒鳴ったりドッキリしかけられて怒ったり、なんかいつも賑やか。ご本人のネタの構成自体はそこまでガチャガチャして落ち着かない!ってわけじゃないけど、とにかくボリュームがデカすぎる。TVショーの登場人物になるとどうしてもそういうキャラ。
 が、この本を読むと、びっくりするほど落ち着いていて理論的で、世間の酸いも甘いも嚙み分けた小田さんに会える。至極淡々として冷静な語り口に、私は小川洋子を見ました(勝手に)
 おそらく、おっとりして素直で物静かなお人柄かと推察。もちろん芸人としての成功についてのこだわりや執着は感じますが、そのために人に媚びたり人を貶めたりは絶対にしなさそう。成功のために、ひたすらよく考えて自分で努力してきた人なんだろうなあと。
 加えて、他人を否定しない。「僕は捨てられないけど、捨てられる人もうらやましく思う」と書ける、その鷹揚さ。実はこの人、キレキャラと真逆の、人生経験と余裕のある天然マイペース
 文章の中身もさることながら、文体もそんな人柄がよく顕れていて、読んでて何故か落ち着く。この人なら、みんなに愛されるだろうなあと納得しました。

素敵な夫婦関係

 特別フィーチャーされてはいないですが、私はちょいちょい出てくる「妻」が大変好きです。(小田さんなら「変な文章ぉ!!!」と叫ばれているでしょうか)
 自分の配偶者のことを、嫁、奥さん、ママ、うちの、等、男性は色んな呼称で紹介します。どれも別に気にはなりませんが、「妻が……」とさらりと言える男性、とても素敵に思えます。
 で、その小田さんの奥様、今年で結婚10年目。小田さんが捨てられないモノとも長くお付き合いされています。
 実は、奥様も同じような別のこだわりがあったり、奥様の意見で小田さんの人生の大きな決定が為されていたり。捨てられない小田さんを糾弾するでも軽蔑するでもなく、こちらも淡々と受け入れて共に歩んでらっしゃる感じ。
 家族売りのためのラブラブアピールとか、新婚で見せびらかしたい顕示欲ではなく、小田さんの生活に当たり前に奥様が存在している。自然に馴染んでいるというか、穏やかで長く続いていく安心感があります。
 なんとなく、このお二人のおうち、適度にモノがあって実家みたいな香りがして落ち着きそうです。 

まとめ

 片付けやミニマリストとは逆ベクトルな「捨てられない」。読んでいくうちに「あ、これは自分も分かる……」と共感するところも出てきます。バスケ関連やファンレター、大事な思い出のあるモノは、捨てないでいただきたいなあ。私も、好きなスポーツチームのグッズ、人からもらった手紙、まとめて押し入れの奥の奥にしまってあります。
 多分、企画した人やネタとしてツッコんだ人とは違う意図なんでしょうが、私はこちら、「とても人の良い努力家が持ち物の大そうじをしてみた」本として楽しみます。
 随所に見られる小田さんの考え方や感覚が、めちゃくちゃ普通で庶民的。大声キレキャラと正反対の静かな小田さん、この本読んでからだともっと応援したくなってしまいます。
 

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