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シャルル エピローグ【創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品】

 エピローグ
 


 怪我が付きものの業界だが、ここまでの大怪我は久しぶりだった。
 
 私はボスの部屋でタバコを吸う。
 
 右腕が三角巾で釣られているから左手で吸う。
 
 結構のストレスだ。
 
 撃つのは左も得意だけど、タバコは右手に限る。
 
 右腕は三角巾で釣られ、左足と頭に包帯を巻いている。
 
 どっからどう見ても大怪我だ。
 
 細川ほそかわさんに合コンの断りをいれなければならない。
 
「それで。今どんな状況?」私がボスに言う。

 襲撃から3時間程経過した。私はなんとか脱出して、会社にたどりついた。応急処置をしてそのままこの部屋に来た。
 
 部屋には、ボス、私、穴熊あなぐま、メカオタ、花村はなむら瑠璃るり、そして八頭司やとうじがいた。
 
「メフィストには既に殲滅作戦が進行中です」ボスが言った。
 
「交戦の意志を見せてものは既に処理されていて、今は逃亡した構成員を追ってる状況みたいです」メカオタが最新情報を補足した。
 
「なんでメフィストぐらいの組織が騙し討ちしたの」私が顔を顰めながら言った。怪我した箇所の鈍い痛みにニコチンが染み渡る。
 
「まだ、理由は判明していません。ですが、計画の全貌は見えてきています。どうやら私、玲奈さん、そして穴熊くんを狙ったみたいです」ボスが言う。
 
 私だけじゃなく、うちの会社のトップ達、全員を狙ったのか。
 
 タバコを吸いながら私はそう思った。
 
「メフィストは花村瑠璃の護衛を依頼した人は祖父だと言っていた。あれは嘘だったの?依頼からメフィストのでっちあげ?」私が疑問に思って言った。突然名前を呼ばれたからか、ビクッと花村瑠璃が反応した。
 
「いえ。それは別の人間です」
 
「誰?」私がタバコを吸いながら言った。
 
「本物の祖父」ボスは立ち上がると、花村瑠璃が座っているソファの後ろに立つ。
 
「つまり私です」ボスはそう言うと、花村瑠璃の頭を撫でた。
 花村瑠璃が嬉しそうに笑う。
 
「嘘だろ」その場にいる全員が驚いて言った。
 
「じいさん、家族いたのか」穴熊があんぐり口を開けながら言った。
 
「言ってませんでしたか。子供が7人。孫が13人います」ボスは平然と言った。
 
 それはそれは。
 とんだ大家族だ。
 
「どういうつもりだよ」私が呆れて言った。
 
「何か問題でも?」ボスが言う。
 
「い、いや。別に問題はないですけど…。この業界、家族は弱点になるとか言って結婚しなかったり、子供作らない人多いじゃないですか」メカオタが言う。
 
「そうですね。私は子供や孫が弱点にならないように、私の家族に危害が及んだ場合、加害者は私自身の手で抹殺するという宣言を出していたのですが…。老いたからか、舐められてしまいましたね。まさか孫を餌にされるとは。家族が狙われたのは初めてです」ボスが言った。
 
「というか、じいさんの孫なら自分で守れよ」私が言った。
 
「できなかったんです」ボスが言った。
 
「どうして」
 
「他の孫にも脅迫が届いていたからです。メフィストは私の孫、複数を餌に使った」
 
「どういうことなんだ」穴熊が言った。
 
「順を追って説明すると、先週、私の元に旧友が訪ねてきました。かなり信頼していた人間です。昔の相棒と言いますか…。とにかく彼は言ったんです。私の孫、瑠璃とそれ以外にも4人の孫を狙う動きがあると」ボスが言った。
 
「本来ならば、私の手で守るべきですが、流石に別々の場所で5人ですから。私は護衛組織に依頼することを決めました。それがメフィストです」
 
「なんでメフィストだったんですか?」そこで八頭司が口を開いた。
 
「簡単な話です。その旧友がメフィストのトップだったからです」ボスが言う。
 
「なんだそれ…」穴熊がつぶやいた。
 
「今から考えると迂闊でした。しかし、その時は旧友を全く疑っていませんでした。まさか自らの組織を犠牲にしてでも私たちを殺しにくるとは。それで、その時はメフィストに護衛を依頼してもらいながら、脅迫主を探していたんです。その過程で怪しい組織を二つほど滅ぼしました」ボスが言った。
 
 さらっと恐ろしいことを言う。
 ボスはまだまだ現役だな。
 
 私はそんな事を思った。
 
「しかし、結局脅迫主を追い詰めることは出来ませんでした。それもそのはずです。脅迫主なんてものは存在しなかった。全部メフィストのボス、私の旧友が仕組んだものだった。彼は今週に入ってから、何人か増員を打診してきました。ですので、私は自身の手で自分の組織に依頼をすることにしました」ボスが言った。
 
「それってありなの?」私が顔を顰めながら言った。
 
「業界では別に禁止されていません」ボスが言った。
 
「それで、穴熊くんを幸太郎こうたろうのところに、玲奈さんを瑠璃のところに送りました。残りの3人は私自身で警護をするつもりでした」ボスがいう。幸太郎はボスの孫の1人で、メフィストに餌に利用されたらしい。私が花村瑠璃の護衛に向かった直後に、穴熊は幸太郎の護衛を任されたらしい。
 
「それで、玲奈が襲撃されたのか」穴熊が言う。
 
「ええ。本当は先ほど言った通りに穴熊くんと私を同時に狙う手筈だったようです。ところが、私が看破してしまった。遅すぎたぐらいですが。それで旧友を呼び出して問い詰めて裏が取れたので殺しました」ボスがまた平然と言う。
 
「突然トップを失って計画が狂ったのでしょう。玲奈さんだけが襲われる結果となった」
 
「なるほどね」私はタバコを吸いながら言った。
 
「私が振り回された結果、2人には迷惑をかけた。申し訳ない」ボスが謝罪した。
 
「じいさんには世話になってるからな。いいよ」私はそう言った。
 
「君も、瑠璃を守ってくれてありがとう」ボスが八頭司に言った。
 
「い、いえ。なんか俺の命も守ってくれたみたいで」八頭司が言った。
 
「君の立場は少しだけややこしい。しばらくはうちに所属した方がいいだろう」ボスが言った。
 
「いいんすか!?お世話になります」八頭司が嬉しそうに言った。
 
 私だけ少し苦い顔をする。
 こいつ苦手なんだよな。
 さっきも人の命を守れる護衛がいいとか言っておきながら、秒で殺し屋の組織に所属することを快諾した。
 
 別にいいけど。
 
「結局メフィストがそこまでして俺らを殺しにきた理由は分からないんですよね」穴熊が言った。
 
「ええ。そこに関しては引き続き調査します。しかし、メフィストクラスが組織全員の命を賭けた…。何かとんでもないことが起こってそうです。少し慎重にいきましょう」ボスが言った。
 
「ふーん。私はしばらく休むから、復帰するまでに解決しといてね。よろしく」そう言って私は立ち上がった。
 
「誰か介護のものをつけましょうか」ボスが言った。
 
「いいよ。怪我治ったら復帰するわ。じゃーね」
 
「あ、その。ありがとうございました」花村瑠璃が頭を下げて言った。
 
「うん」私は少し恥ずかしくなって適当に頷いてしまう。
 
 今までたくさんの命を奪ってきた。
 助けたのは久しぶりだし、感謝されるのは初めてだった。
 
 
 
 
 会社を出て、タクシーで家に向かう。
 
 長い一日だった。
 
 愛菜が出てきて。
 案件の変更を言い渡されて。
 そして死にかけた。
 
 いつも、愛菜が出てきたら最悪な気分になるが、いなくなったらいなくなったで寂しい。
 この、ぽっかり穴が空いた気分を味わうところまで含めて嫌いなのかもしれない。
 
 ベランダに出て、タバコに火をつける。
 
 煙が夜の空にすっと消えて行った。






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第1話



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