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割と若くして乳がんになった話⑥ 〜入院と手術〜

セカンドオピニオンの結果を受け、納得感満点で手術の日を迎えることとなった。
自分にはこの方法がベストなんだと心から納得して治療に臨むことは本当に重要なので、セカンドオピニオンを受けるかどうか迷ってる方はぜひとも受けるようお勧めしたい。

例えば胸を全摘してから「ほかの病院だったら温存できたんじゃないか?」と思ったり、薬の副作用に苦しみながら「別の治療方法もあったんじゃないか?」などと思ったりすることは精神衛生上、非常に良くない。
あと、主治医にセカンドオピニオンを受けたいと相談した時、もし嫌な顔をされたらもうその病院は変えたほうがいいのではないだろうか。
患者が納得して治療することに非協力的な医者とは、二人三脚で治療に挑める気がしないと個人的には思う。

私は100%納得している状態だったからか、手術の日もリラックスして迎えることができた。
手術の前日に入院し、21時から絶食。
翌日の11時まで、OS-1を2本飲む。
OS-1は苦手な人が多いようだが、私は普通においしくいただけた。
昔飲んだ時にすごくまずかったので躊躇していたのだが、いつの間にかリニューアルされておいしくなっていた。

着圧ソックスを履き、手術着に着替えて待機。
13時頃に看護師に呼ばれ、手術室まで徒歩で向かう。
その間、看護師が術後に着用するバストバンドの説明を妙に明るくしてくれた。
気持ちを紛らわせてくれてるんだろうなと思ってありがたかった。

「麻酔ってすぐに効くんですか?」と聞いたら、「1、2って数えて2まで持つ人はほとんどいないくらい、すぐ効きますよ」って教えてくれた。
そうか、そんなに一瞬で効いちゃうんだ。
普段眠りにつく時みたいに、うつらうつらとまどろんで、「ああ、そろそろ寝付きそうだな……」と思う瞬間すらないんだな。

手術室に入ると、映画やドラマで見るような手術台があった。
その上に仰向けになると、酸素吸入器が装着され、点滴が刺された。
それまでリラックスしていたのに、「ではそろそろ麻酔を入れていきますね」と言われた瞬間、「ああ、これでいよいよ私の右胸はなくなるんだ……」と急に実感して、涙がポロポロと溢れ出てきた。
もう覚悟は決めていたはずなのに。
さっきまであんなにリラックスして、看護師と談笑してたくらいなのに。
麻酔が入れられたら、一瞬で眠りについてしまう。
今、麻酔が入れられたら、私はもう右胸を失ってしまう……。

涙が止まらなくなって、グスン、グスンと鼻をすすった。
S先生が私の右手を、看護師が左手を握り、優しくさすってくれた。
さらにS先生は私の涙を拭いながら、「大丈夫ですよ」って何度も言ってくれた。
涙声で「はい……はい……」とか細く答えるのがやっとだった。

そうやってグスン、グスンと泣いていたら、「きこりさん、きこりさん、起きてください。終わりましたよ。」という声で起こされた。
人はこれをワープと呼ぶという。
全身麻酔って本当にすごい。

目が覚めるなり、S先生から「脇のリンパに転移ありませんでしたよ!」と嬉しい報告があった。
術前のエコー診断およびMRI検査でも腋窩リンパへの転移は見られなかったが、手術の際に「センチネルリンパ節生検」という検査をして、本当に転移がないのか確定診断をすることになった。
画像診断では分からない転移がある可能性がなきにしもあらずだったため、転移がないと聞いて心からホッとした。
ここで転移が見られると脇のリンパを大きく取らなければいけなくなるため、手術の予後にも違いが出てくる。

ベッドに寝たまま病室まで移動され、自分の状況を改めて把握する。
顔には酸素吸入器。
左腕には点滴と血圧計。
右胸からはドレーン。
左胸には心電図。
右手に酸素を測るやつ。
下半身からは尿管カテーテル。
両脚にはむくみ防止のためのマッサージ機。
全身、管だらけである。

とにかく全身が管だらけなので、寝にくくて仕方ない。
とりあえずボケーッと天井を眺めながら、物思いにふける。
そして「ああ、もう右胸はないんだな……」と思った。
そしたらなぜか急に吹っ切れて、シンプル「なくなっちゃったもんはしゃーない」と思った。
手術直前にあんなにメソメソ泣いていたのは何だったんだろうってくらい、ずいぶんあっさりとしたもんだ。
自分でもビックリした。

2時間くらいボーッとしていると、夕食が運ばれてきた。
内臓の手術ではないので、いきなり普通食だ。
「えー、いきなりそんな食べられるかな〜?」と思いながら、ペロリと平らげてしまった。

食後はスマホをいじって時間をつぶし、消灯時間に就寝。
寝る前に点滴を外してもらい、左腕が自由になった。
しかし夜中にひどい吐き気を催し、看護師さんに訴えると、吐き気止めは点滴だと言う。
それは勘弁願いたいと思い、我慢することにした。
吐くためのバケツも用意してもらったが、ベッドを起こしてもらったら自然と吐き気は治まった。
全身麻酔の副作用で吐き気はよく起こるそうなので、私の場合も恐らく麻酔が原因だったのだろう。

その後も尿管やドレーンから出てきた体液を看護師さんが定期的に回収に来てくれた。
寝返りを打ってもいいですよとS先生は言ってくれたが、全身に管が通っているためどうしても動くことを躊躇してしまう。
結果、腰と背中が痛くなってしまってあまり熟睡できなかった。

早朝に早々と尿管を抜いてもらい、自力でトイレに行けるように。
朝食もきれいに完食してしまい、体力もメンタルも思ったよりも普通だったため拍子抜けした。
傷口も痛むには痛むが、痛み止めも効いているので全然我慢できるレベル。

午後にはいきなりリハビリを開始。
と言っても初日は非常に簡単なもので、廊下を2往復歩いたのと、簡単な腕の上げ下げや曲げ伸ばし。
理学療法士さんとも楽しく談笑し、なんか入院生活も思ったより快適だなぁと呑気なことを思いながら、家から持参したお気に入りのお茶とお菓子を楽しんだりした。

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