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バツイチ彼に初めて手を握られた日の話。


あの頃、ちょうどグラコロの季節だった。
2023年は定番のグラコロのみならず限定のグラコロも当たり年で、めちゃくちゃ美味しかったのだ。2回は食べた気がする。

あれからアプリ内でまた会う流れになったのだが、ちょうどその頃私は多忙だった上、子の体調不良も重なり、結局二度目のデートが実現したのは3週間後だった。
LINE交換はしたものの、連絡は最小限。
向こうからイルミネーションの写真を送ってきてくれたことがあった。
これを見せたいと思ってくれたのかあ、ピュアな人だなと思った。

アプリはタイミングも重要である。
3週間も空けば、とっくに他の人と沢山マッチしているだろうし、デートもしているだろう。
もはや、彼に関しては何も期待せず、男友達のような感覚で気楽に接している自分がいた。
人生の悩みを共有できる友達が出来た気分だった。
うん、悪くない。
本当に欲しかったのは恋人なんだけど、こんなこれから幸せになるべき人をたぶらかしたらバチが当たりそうだから。

1軒目で軽くビールを引っかけ、
彼に抱かれる気はなかったので(ひどい)事前に時間が余ったらお茶でもしようと釘を刺していたので、
2軒目はカフェでお茶した。
口数が決して多い方ではない彼だが、アルコールが入ると少しおしゃべりになるみたいだった。
とにかくなんでも話してくれる。
スマホの写真や仕事のスケジュールまで見せてくれる、正直で真っ直ぐな人だなと思った。

アプリのあるあるだが、当時私はLINEをフルネームで登録していなかった。
彼は私に漢字のフルネームを聞いてきたので教えたら、いつのまにか名前を登録し直してくれていた。
アプリの人、としてではなく
これもひとつの出会い、1人の人間として向き合ってくれてるのが嬉しかった。
人との向き合い方が似ている。
人間関係が深く長く続く、情の深いタイプだ。

他にも共通点があった。
一つは、昔お互いの行動範囲が非常に近かった時期があったのだ。
同じ時期に同じ町内に私は住み、彼は通学していた。
道で確実に一度はすれ違っていたであろう距離感。
お互いに10年以上前、当時の夢を追いかけて下積みを頑張っていた時期のことだ。
お互い夢に挑戦したものの破れ、結果的に夢見たファーストキャリアは叶っていない。
私は不貞腐れて女であることを最大限に活用してハイスペとの結婚へ逃げ、主婦になった。
彼は、それまでに培ってきた力を活かし、さらに自力で勉強し、今の職に就いて活躍している。
(今思えばここにも人間力の差が如実に現れている…)

私は全てを賭けて追いかけた夢に敗れる辛さを痛いほど知っている。
撤退を自分で決めるのもまた難しいことなのだ。
男性なら尚更だ。
彼は立派な人だ。
そして、賢い人だとも思った。尊敬できる人だ。

実は私自身はわかりやすい高学歴の秀才だ。
中途半端な大卒の男性なら大抵怯む
人の素晴らしさというものは学歴では計れないと常々思ってきたが、それでも知らなかった。こんな素敵な男性がいるなんて。
今までリアルに出会ってきたどんな大卒の男性たちより尊敬に値する生き方をしている人だと思った。
というか、彼の場合はこの地頭と運動神経があれば、行こうと思えばスポーツ推薦でどこにでも進学出来た人なのだ。
皆が学生生活を謳歌している間、ストイックに夢に挑戦していた。
そこがいい。
妙なプライドがなくて、大学名を知ってもフラットで居てくれて、文系?理系?と聞いたら…体育会系?と答えてくれる彼は魅力的な人だ。

その日の帰り、今日も結局何も進展なかったなあ。と安心していた矢先のことだ。
側を通った自転車にぶつかりそうになり、手を引かれた。

あっ、手を握られた。下心?
と思った瞬間。
握った手を離された。こちらはさらに混乱である。ちょっと嬉しかったのに。
彼は一瞬握ってすぐに離した手をじっと見つめながら、人肌に触れたの久しぶりだな…と遠い目をしてつぶやいていた。
アプリへの課金が足りないよ??
と突っ込んでしまった。

その後少しだけ手を繋いで歩いたのだが、
駅に着く前にまたすぐ離された。
その様子が可愛らしくて、微笑ましくて、思わず笑ってしまった。
彼って可愛い。
若い子からしたらかっこいいんだろうけど、
私からしたら可愛い。
私は自分を特別だと感じさせてくれる人に弱い。

あれが彼に興味がなかった私の気を引くための演技で全部嘘だったら、
彼は夢だった職業でも、今の職業でもなく、
演技派の俳優になるべきだ。










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