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重度障がい者ホームに立入検査という記事から考えた。

運営基準違反の疑いで立入検査が入ったという事実が書かれている。まだ結果は出ていない。インパクトは薄いけれども、昨今のグループホームの問題と兼ね合わせると批判的な印象を受ける。しかしながら記事の狙いがわかりにくい。障がい者のグループホームのあり方に対しての問題提起が狙いなのか。

確かにグループホームの運営は、ホームによってかなり差異があるという感想を私も持っている。もちろんほとんどのホームは居住者に寄り添った支援を心がけている。けれども働く人たちの都合に偏ってしまい居住者の意思は?と首をかしげざるを得ないホームもある。

また、会社の方針はもちろんのこと、実際に関わるスタッフの知識、知恵、人柄、倫理観、意識、チームワークによって居住者の生活の質が大きく変わってしまうこともある。福祉サービスは人材不足が慢性化している。どこもスタッフの質が一定しているとは言えず、人が入れ替わる。その課題が運営上の難問となっている。

私などが指摘するまでもなく福祉施設の運営に携わっている人はずっと頭を抱えている。頑張って運営しているところであっても居住者どうしの相性やスタッフとの相性なども関わるので難しい。マニュアルだけでクリアできる世界でもない。

皆が気持ちよく暮らせるように運営することも、居住者が自分にあったグループホームを選ぶことも難しいのが本当のところだろう。

障がい者の住まいの選択の幅は広がったけれど、自分の条件にベストマッチの場所はそう簡単には見つからない。ベターな場所を見つけそこに合わせていく努力が必要になる。それが、現実だと思う。

このことを書き留めたのは、記事を書かれた会社の説明会に声をかけられて出席することになったから。

当日は、グループホームの居住者、家族、行政職員、相談支援員などが10名程度に会社の代表含め関係者が8名程度のごじんまりとした説明会。報道関係者はいなかった。

最初に代表から今回の説明会を開いた趣旨に関して説明があり、続いて、グループホームのサービス管理者から報道された運営基準に抵触したと思われている詳細の事例についての説明があり、質疑という流れだった。

冒頭、県の立入検査があったが、まだその結果が届いているわけではないという報告があった。

この段階での説明会の意図は、
1.現居住者に心配をかけまいとする配慮。
2.運営会社の方たちが、説明をした上で関係者に意見を聞きたい、という気持ち。
3.検査の結果が出ないことで経営が圧迫されていること、そこに加えて報道されたことで苦境に立たされた事への訴え。
のようだった。

最初の問いに対しては、代表が『閉鎖は考えていません』と発言し、現居住者も職員もひとまずは安堵した。

2の問題が、本来の焦点だが、検査の結果が出ていない現在、軽々に意見は述べられない。

3は、もしも問題だが、もしも特に指導がなかった場合は、グループホームを運営する企業には大きな痛手を与えられたような結果になる。事実、すでになっている。

整理していたら、もやっとしていたことに、ようやく気づいた。

この報道は、事業所には本当に堪えるし、現場にも大きな影響を与える。ニュースの文章は確かに事実のみを伝えているので誤認はない。

しかし、仮に指導がなかった場合であっても、記事を読んだ人には、グループホームへの悪印象が残る。

つまり、報道によって逆風が起こるということがモヤッとした原因だった。

障がい者のグループホームは、今地域に増えている。建設には反対運動が持ち上がったりする事例もあり、地域共生社会という掛け声はあっても簡単にことが進むわけではない。

地域のグループホーム建設反対運動を取り上げたドキュメンタリー映画もあったが、かなり厳しいものだった。当事者の方からメンタルをやられるのでそんな映画見たくない、という声も聞いた。現実の世界に居場所を見いだせないと思っている人の気持ちに拍車をかけそうだ。

たとえ法令で守られても、やはり、先住している地域住民の協力なくしては気持ちの良い住み方はできないのは、当たり前のことだ。

しかもここのところ、グループホームに対してのマイナスな報道が続いている。先日も居住者からもらう食材費の差額を返金せずに運営費に充てていたグループホームが厳しく叩かれた。もちろん、これは当然のこと。きちんとチェックする必要がある。介護保険制度が登場した時に福祉の市場開放が叫ばれ、悪い事業者は市場に淘汰されると言われたが、法令遵守をモニタリングしたりチェックする仕組みも必要だ。

ただし、ガイドラインを超えて努力をしているグループホームもあるのも現実である。十把一絡げに悪いラベルが貼られると運営する人も嫌気がさす。そんな声も聞く。悪循環は由々しき問題。回り回って障がいのある方の住まい、地域生活が脅かされることにつながりかねない。

ペンに脅かされて真面目な運営者が撤退するのは困る。

勝手な推察だが、記事の狙いは、障害のある人の居住問題に関心を持ってもらいたい、という点だったのではないかと想像する。

そうであれば、運営基準違反が示されてからであればとてもスッキリした記事であった、と思う。

説明会の途中で、居住者の方の「わたしたちが取材を受けるようなことはあるのですか」という不安な声に対して、「このニュースがビッグニュースになることはないので心配しないでください」と運営会社の方が答えた。

「ビッグニュースにならない」

微妙な気持ちが起こったが、おそらくそうだろう。だからこそ、関心を持ってもらう取り組みが必要なのだと感じた。

蛇足であることを承知で提案をひとつ。

障がいのある方が地域で暮らしやすくなるためのシンポジウムを様々な都市で開いたら良い。誰もが当たり前に地域で暮らすことを考えていく契機を地道に作ることこそ必要だ。運営会社も記者も当事者も同じ方向を向いてるはずなのだから。

当事者を含めて、この問題に関心がある方が、思いの丈を語れる場をつくることは難しいのだろうか?

コーディネーターにはnoterでもある岸田奈美氏を推薦しておこう。皆の気持ちを明るくさせながら、この問題を発信してくれそうである。

課題から目を逸らさずに皆で知恵を出し合う時期ではないか。地域共生社会といわれ、誰もが当たり前に地域で暮らすことをうたうならば、現在の問題点をさらけ出し、改善の道を探る方向が良い。そこには意見の違う人の協力や理解、当然のことながらお金も必要になる。理念や理想だけでは太刀打ちできない。だからこそ、難しさがあるのだ。

そろそろ、検査の結果も出る頃だと思う。続報を待っている。そして、柔らかい社会を作る方向にペンを走らせてもらいたい。



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