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秘密のカヲきゅん4

「中屋敷くんおはよう!」
電車を降りて改札に向かう途中に声をかけられた。
「お、おはよう」
バイト仲間の小坂だった。昨夜、若返ったカヲルと歩いているところに遭遇してしまった人物だ。小坂はさりげなくトモヤの隣に並んだ。
「昨日の一緒にいたカワイイ子、彼女ですか?」
予想通り聞いてきた。ともやは聞かれるだろうなとは思っていた。
「違うよ…イトコなんだ」
「へぇ…かわいい子っすね」
「ま、まあね。よく言われるよ」

トモヤはやっかいだなと思った。小坂は「おしゃべり」なのだ。内緒にしてくれといっても絶対にしゃべってしまう。そういうキャラだった。
「ちょっとの間、ばあちゃんに会いに来てるんだよ」
「へー…」
あきらかにこの話題に関心を持っているのをトモヤは感じた。頼むから関心を持たないでほしい。今のカヲルは本来のカヲルじゃないのだ。いつまでその姿でいるかわからないし、社会的に証明できない存在になってしまっているのだ。
「その子名前は何ていうんですか?」
小坂はいくらか照れながら聞いてきた。隠し切れない関心の深さをトモヤは感じて頭が痛くなりそうだった。
「カヲル…」
「カヲルっていうんだ」
うっかり本名を伝えてしまい、トモヤはハッとした。まずい。祖母と同じ名前はわかりやすく違和感がある。
「へぇ、何才なんですか?まだ10代でしょ?」
「カヲルは…19才だよ」
「僕と8才差だ!」
咄嗟に19才ということにしたが…はたしてこの年齢設定が凶とでるか吉とでるか…トモヤは心の中で祈った。
(頼むから面倒なことになりませんよーに!)
「…カヲル彼氏いるよ」
「そうなんですか?」
「小坂くんの出番はないんじゃないかな」
「いやでも、まだ19才ならチャンスある…」
嘘はついていない。カヲルの夫である「じいちゃん」は5年前に亡くなったが…
じいちゃんが生きていたら…心臓発作起こしそうだ…とトモヤは思った。
「大学生ですか?」
質問攻めの小坂にトモヤは
「これ以上無理。勝手にバラしたらカヲルに怒られるから」
と適当なことを言ってこの話題を止めた。これ以上うまく取り繕う自信がまったくわかなかった。


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