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秘密のカヲきゅん9

午後三時のカフェは明るい日差しに満たされてキラキラしていた。連れてこられたのは高級なかんじの建物の一角にある、かなり高級なカフェというよりラウンジ的な特殊な店だった。
「お礼だからさ、好きなの頼んでいいよ」
佐藤マリエと名乗る彼女はそう言って、カヲルにメニューを差し出した。
「…いいの?ただ雑誌をゆずっただけなのに」
カヲルはメニューを見た後にマリエを見上げた。なぜって、ケーキセットが五千円もする店なんて来たことが無い。
「いーの、いーの。さとみさまのグッズが手に入ったんだから」
どうやら、推しは「さとみ」らしい。雑誌の内容はもう把握していたので、カヲルはそれが誰なのかすぐにわかった。
それよりも…なんでこんな高級なラウンジに、こんな若い子が気軽に来れるのだろうか…社会人だとしても…不思議だ。
「マリエちゃんは働いてるの?」
「ふふふ」
マリエは不敵な笑みを浮かべた。
「だって…こんなに高級なトコ…」
カヲルが注文するのを躊躇していると
「心配いらないよ。あたしこの店の出資者なんだ」
「出資者?」
「そう。オーナーではないけどさ。だから心配ないよ」
「???」
いいから早くとせかされて、カヲルはアールグレイのジュレティーとケーキのセットを注文した。
「ねね、カヲルちゃんは学生?」
逆に聞かれてカヲルはドキッとした。
「え、えーと…ううん。今は親戚の家の家事手伝いをしてる」
「そーなんだ?高校生かと思った。何才なの?」
「じゅ…十九才…マリエちゃんは?」
「あたし?ふふっ、知りたい?」
「うん」
「今年二十九才」
「えええええっ?!」
カヲルはとんでもなく驚いた。吊りズボンにTシャツでポニーテールで、どう見ても同じ年くらいにしか見えない。
「同じくらいかと思った」
「たまにさ、オバケって言われることある。こんなでも一応社会人~」
マリエは運ばれてきたストロベリーパフェをいただきまーすと言って食べ始めた。美味しそうにどんどんアイスやらいちごやらが口の中に消えてゆく。カヲルはジュレティーをずるずると飲みながらマリエをぼんやりと眺めた。
「やだ、そんなに観察しないでよー」
マリエは照れくさそうに笑った。
「ね…マリエちゃん…」
カヲルは勇気をふりしぼって言ってみた。
「お友達になろう!」
「いいよ?じゃあ、これインスタとライン…」
マリエはさくさくとスマホを操作している。
「…インスタ無いのかな?」
「…作り方教えて!」
カヲルは楽しくなって、新しく購入したスマホを取り出した。
こうして、カヲルの二つ目の世界線初の友達ができた。

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