樹堂骨董店へようこそ21
七緒も那胡もお互いに明日は仕事があるので、話を終えて解散した。
神社の周りは人通りも車通りも夜になると急に途絶える。そして街灯の数も少ない。真っ暗な道にポツンポツンとあるだけ。それでも、ふもとの町へ向かって道路が続いていることがわかるくらいにはある。
那胡はもののけタクシーを呼ぼうとスマホを取り出した。すぐ横にある樹堂骨董店はまだ明るい。この店、開店が朝の10時なのに深夜の2時くらいまで開いているのだ。誰も来ないのに。
へんなの…
その時ふいに山の上のほうから何か大きな音が近づいてきた。ゴーォォォという風の音がする。それは低い地鳴りのような音と高い笛のような音が混じったような音だ。
那胡はすぐに道路の端っこに身を寄せた。
来る!
普通の人には見えないモノだった。大きな光の塊が道をかなりの速さで下ってくる。那胡はその光のすぐ横に先ほど見た「目の赤いサラリーマン風の青年」を見つけた。一緒に滑り降りてくるようにも、飛んでいるようにも見える。
えええっ?飛んでる??
青年は那胡に気が付くと、光の塊から離れてふわりとすぐ目の前に着地した。
「こんばん…わ」
この先、下りの道はいくらかカーブしている。光は道なりには行かずにそのまま、まっすぐに道から崖下に向かって飛んだ。
「こんばんわ…」
あいさつを返したが光の行方の方が気になって仕方ない。
「アレは…まっすぐに進む…曲がら…ない…」
青年は会釈しながらたどたどしくしゃべった。
「そうなんだ…」
那胡はここでようやく我に返った。
「あの…どこかで…」
「…知っている。イツキさん…の娘さん…です…ね?」
「パパの事知ってるの?」
「…仕事を…一緒にしている」
今はそんなに瞳は赤くなかった。ぼんやりした街灯に照らされて髪が銀色に光ってそれがすごくキレイで、那胡はちょっとだけドキッとした。
「私は那胡と言います…あなたは?」
「…流…です。りゅう…と呼んで…ください…イツキさんも…そう呼ぶ」
「わかった。じゃあ私のこともナコって呼んでください」
流は那胡のポケットを指さした。
「私の…時計…あります…ね」
「これ、流の時計なの?」
那胡は懐中時計を流に差し出した。
「…大事…な…ものです」
懐中時計を見て表情がゆるんだ流はやさしく微笑しているようにも見えて那胡はさらにドキリとしてしまった。
「それなら返します。はい」
流の手の平にそっとのせた。少しだけふれた流の手はひんやり冷たかった。
「…ありがとう…」
そう言うと流は会釈してそのまま立ち去った。あっという間に闇に紛れて見えなくなった。