樹堂骨董店へようこそ28
「ちょっとお…那胡はどこへ行ったのよ…」
七緒は樹堂店内の長椅子に横たわる小林を見てわなわなと拳を震わせている。
「…またもののけ道へ流と行ったみたいね」
カウンターからリンが声をかけた。
「りんさん…今日って何日か知ってますよね?」
「今年最後の日。大晦日よね」
「そうです…なのに、こんなに人手が足りない時にどこ行ったんだ…」
ここ数年、桜杜の人口が少しずつ減少しているということで自治体がいくつかの団体と協賛で「カウントダウンinSAKURAMORI」というイベントを大晦日から元旦にかけて開催しているためにお客さんが例年の倍以上流入しているのだ。その波は神社にも影響している。というか、神社にかなり影響している。カウントダウン自体は役場の広場で行っているのだが、新年あけてすぐの参拝をする客が増え、年明け数時間前から境内に集まるようになっていた。
「そのうち帰ってくると思うわ」
「なんで?」
「流が一緒だからね。あの人は交代の合図をしに行っただけだから」
「…交代?」
「そうよ。桜杜はみんなで協力して成立しているの。ずっと同じモノがいるわけじゃないの。七年に一度の交代よ」
「…そっか…七年祭りの翌年は…」
「そう。交代なの。桜杜に次のモノたちが来る」
「…」
七緒も桜杜のからくりをすべては知らない。少しずつ明らかになることをひとつずつ覚えていくのだ。
「…そういうことなんだ…」
七緒は今まで知っているいくつかの桜杜のナゾを頭の中でつなぎ合わせる。りんのたった一言でパズルのピースがうまっていくように自然に繋がる。
「そういえば、社務所は今誰が番をしているの?」
「それは…マミちゃんと父が…」
「…それはタイヘン…七緒ちゃんが戻った方がいいんじゃない?」
マミちゃんも七緒の父も「会計」が下手だ。いつもおつりを間違えるから最後にどうしても現金出納が合わなくなる。リンはそれをよく知っていた。
「ああもう…でも流って人がいるなら安心かな。あのひとって…管理人でしょ?桜杜の…」
りんが口を開こうとしたその時、うーんと言って長椅子に横になっていた小林が体を起こした。きょろきょろ見回している。七緒と目が合った。
「小林さん…」
「七緒さん?…あれ私は何をしてたんだ…」
小林は額を押さえた。
(…なんでここに来たんだっけ?思い出せない…確か…イツキさんのことを…)
小林は七緒を見た。
「小林さん、うちの境内で倒れたんですよ。大丈夫ですか?」
「…そうだったんですか…」
小林はまだ目が覚め切らない表情で壁にかかっている時計を見た。もうすぐで七時。今までここで何をしていたのか小林は思い出せなかった。
「今日は大晦日です。ご家族も心配されているんじゃないですか?」
ハッとした顔で小林はごそごそとスマホを取り出すと画面を見てまずいなぁという顔をした。
「…私はこれでお暇します。お世話になりましてありがとうございました」
立ち上がると小林は深々と七緒とりんに頭を下げ、静かに樹堂を出て行った。しっかりとした足取りだったので、七緒はそのまま見送ることにした。
「私も戻る。さっき、お汁粉美味しかったよ、りんさん。ありがとう」
「どういたしまして。おかわりしてもいいのよ」
「あとでまたもらいに来るね」
そう言って七緒も神社へと戻った。