ショートボブの彼女
初めて彼女を見たのは、演劇部の出し物だった。
壊れた人形の役だった。肩に届かないショートボブヘアに黒いワンピース、滑らかに動かないカクカクした手足の動き。少ないセリフなのにやけに印象に残る声と姿。
なぜか目が釘付けになった。
すぐに彼女のことがわかった。三年生だった。半年以内に卒業してしまうことがわかる。私はがっかりした。
そんな、すぐに卒業なんて寂しいなぁ。
でも、そんな気持ちはすぐにすっとんで消えた。
今まで気づかなかったけれど、時間帯によっては彼女と登下校に同じ道を通ることがわかった。
あれ…ひょっとして以外と近所に住んでるのかも。
日本人形みたいな立ち姿が本当に美しくて私は憧れた。彼女みたいになりたいな。
でも、私はくせ毛で髪がうねうねしてる。肌も白くないし…あんなにスタイルよくない。どう考えても同じにはなれない。
彼女はその美しい容姿には想像できない「彼女の特徴」もあった。
上履きのかかとを踏んで歩く
制服のスカートの長さを守らない
毎朝男の子2人を連れて登校している
頭の中ですっかり彼女を美化していた私はかなり驚いたけど、これが本来の彼女なのかもしれないと思うと、ちょっとだけわくわくした。私もかかと踏んじゃおうかなと何度も思った。男の子2人連れも女王様みたいでかっこいいなと思った。これはさすがにマネできない。
そんな、意外な一面を持つ彼女はすっかり私の憧れだった。
そんな彼女は半年後、あっさりと卒業して行った。三年生に知り合いがいなかった私は彼女の行方を知らなかった。
彼女が卒業してから二回目の桜の季節がやってきた時だった。
私は駅に向かっていた。新しい革靴のかかとが痛くって靴づれの予感にがっかりしていた。
ふと前方に人が三人歩いているのが視界に入った。
坂の上の線路沿いのマンションの前を学ランの男の子二人とブレザーにプリーツスカートの女の子が駅の方向に歩いていた。女の子はショートボブだった。生温かい風に桜の花びらが舞っていた。
あ!彼女だ!
制服は変わったけれど、二年前と変わらない風景を久しぶりに見れて私はうれしくなった。元気そう!男の子の人数も変わらない!
可哀そうだけれど、男の子二人は興味の対象外だったため、顔を覚えていないのだ。
私はうれしくなって、靴づれのことなんてどうでもよくなった。桜の花びらにまぎれて彼女たちの後ろを駅に向かって歩いた。
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