見出し画像

銭湯

僕はいわゆる、下町っ子だ。
福岡きっての繁華街、博多の駅から徒歩15分ほどの吉塚という場所で育った。

かつて吉塚といえば、「治安が悪い」ことで有名だった。

中学校は荒れていて、合唱コンクールが無事開催できた、というので感動し涙する近隣住民がいたくらいだ。

それがここ10年くらいの間で博多のベッドタウンとして人気を博すようになり、住む人も入れ替わった。教育レベルもぐんとアップしている。

駅の再開発に沿って新しい商業施設もオープンし、街はずいぶん住みやすくなった様子だ。

人や街並みが変わる中、変わらないものもある。

そのひとつが銭湯だ。

吉塚には「大黒湯」隣の千代にはお気に入りの「東湯」がある。

僕の銭湯デビューは大学2年生の夏。
千代の「東湯」が最初の思い出。

銭湯の料金システムやマナーも何もわからないままのれんをくぐると、まるでドラマのセットみたいな、昭和の世界に引き摺り込まれた。

昭和レトロをテーマにして、ガラクタやそれっぽい小道具を節操なく集めた居酒屋で感じるそれとは全く違う。日々誰かが使っている息遣いがする。生きた昭和の香り。

服を脱いで浴室の扉を開けると、漂うお湯の匂い。高い天井には湯気抜きの広い開口。そこから差し込む光と浴槽からのぼる湯気が交差する。目に見えないけど感じるマイナスイオン。

シャワーを浴びて熱めの湯に浸かる。体の力が抜けて、ふう、と吐息が漏れる。

僕は一発で銭湯の魅力にノックアウトされた。

それから、春吉の「都湯」、住吉の「鶴亀湯」、薬院の「本庄湯」、千代の「大徳湯」、長尾にある「ヘルスイン長尾湯」を巡った。

旅行に行った時も、地元の銭湯を訪れる。東京中央区の「銀座湯」に神奈川新丸子の「丸子温泉」。

熱め、ぬるめ、サウナが併設されてたり、チラーを使って水風呂をキンキンにしてたり。ブーツが入る下駄箱があったり、浴室の壁画だったり、タイルの色使いや模様。浴槽の形や番台の高さ。

見れば見るほど、それぞれ違いがあって面白い。

銭湯を巡るうち、交代浴(温冷浴)を知り、あのクラクラする感覚、ととのう感覚に夢中になった。熱いと水でお湯を埋める人もいるけど、個人的には熱めが大好きだ。

今ではviviの8階にあるコナミスポーツクラブを「ホーム湯」にして、仕事帰りに風呂を浴びて帰る毎日だ。

銭湯はいいぞ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?