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ほんまる神保町で、棚主へ③

前回のあらすじ
いきなり怖い絵を描くAIと、さよなら感が強すぎるドビュッシー。

5月25日(土)。一週間ぶりの神保町。
「変わんねぇな、この街も」
などと言いながらほんまる神保町へ。

神保町駅A6出口を出たところ

さて、唐突だが私が大谷翔平に勝っているところが一つある。それは、身長。
大谷翔平は193センチ。私は170センチ。
負けとるやんけ。

だが、どうだろう。ちょっと考えてみてほしい。「大きいほうが勝ち」と思い込んでいるだけではないだろうか。ギネスブックに載っている世界一背の高い男が唯一の勝ちで、あとは全員負け。そんな馬鹿な。
なので「180センチに近いほうが勝ち」と規定する(男性の場合)。180センチというのは日本人としては高身長にあたるし、世界的に見ても低身長ということはないだろう。
ということで、私の勝ちだ。
残念だったな翔平。たしかに私は野球などできないし、億超えの年収もないし、預金に手を出す通訳もいない。
でも、高身長による生きづらさとは無縁だ。

なぜこんな話を長々としているのか。
つまりこういうことを言いたい。

「ほんまるの一番上の棚、高くない?」

もちろん金額の話ではない。物理的な高さの話だ。手は届く。だが、手に取った本を元に戻す自信がない。なんか表紙とか帯とか破損させてしまいそうで怖い。
もちろん店内には踏み台も用意されている。おしゃれな踏み台。だが、おしゃれゆえに余計なことを考えてしまう。

「これは、土足で使っていいのだろうか」

たぶん、土足で問題ない。しかし土足で乗った瞬間、店員さんがすっ飛んできて「お客様! 靴! 靴を脱いでくださいっ!」とか言ってきたらどうしよう、とかそんなことばかり考える。
ならば踏み台を使う前に店員さんに確認すればいいだけじゃないか。
いや、それ以前の問題もあるのだ。

私は中学生の頃、バスケ部に所属していた。当時、スラムダンクという漫画が大ヒットしており、それに影響されて入部したほどの腕前だ。
全国大会の地区予選の一回戦で敗退するチームの補欠であったことからわかるように、私は運動神経があまりよろしくない。
というか自身の運動神経について理解できていない。高校生の頃、体育の授業でやった走り高跳び。私は170センチをクリアした。自分の身長と同じ高さを跳んだのだ。はさみ跳びで。
「なんでそれでいけんだよ」
体育教師が戸惑っていたのを昨日のことのように思い出す。
そんなに変だった? とクラスメイトに訊くと「走るタイプのゾンビが具合悪そうに走ってきたと思ったら唐突に跳んだ感じ」と。
ゾンビはだいたい具合悪そうだろうが。

そんな人間なので、踏み台に乗ったあと、まんまとひっくり返って大惨事を招く気がする。単に運動神経が悪いならばシンプルにひっくり返るだけなところを、そういうときだけ無駄に効率よく周囲に被害をもたらし、人類が起こし得る最大限の被害を生む気がする。
しかも他のお客さんまで巻き込むタイプの惨事を引き起こし、「作家今村翔吾氏の店で客の男が大暴れ。怪我人が出た模様」などと報道されるところまで想像ができる。
「自称棚主のこやま容疑者は『踏み台を使おうとした』などと供述しており、警察は薬物の使用なども含めて捜査していくとのことです」

そんなわけで、前回訪れたときに気になりながらも手を伸ばさなかった稲羽白菟さんの棚。先週までは一節(一番上の棚)にあったはずが、今日見たら向かいの棚の少し低い位置に移動していた。やはりこっちのほうが断然手に取りやすい。

いや他人の棚を気にしている場合ではない。まずは自分の棚だ。

床上五センチ書店

おお、並んでる。「さよならドビュッシー(中山七里)」が陳列されたと連絡を受けた次の日、「総理にされた男(中山七里)」「六人の嘘つきな大学生(浅倉秋成)」「その可能性はすでに考えた(井上真偽)」の三冊が陳列されたと連絡を受けていたのだ。

計四冊。そこまで悲劇的にすかすかといった印象でもない。実際すかすかだが、店員さんが面陳してくれているおかげだ。これは助かる。
代本板は「契約済」というものが入っている。画像データなどを送ったのが木曜日の夜だったので、いま(土曜日)まだ反映されていないのは仕方ない。というか前回訪れたときに見た、なにも貼っていないただの板が入っている棚はなくなっていた。「契約済」か「棚主募集中」というものはあった。

自身の棚に並んでいる本の裏面を見ると、「床上五センチ書店」と書かれたシールが。いいね。始まった感がある。

余談だが(ずっと余談ばかり書き連ねている気もするが)、ほんまる神保町へ来るのに一番近いのはA1出口らしい。神保町駅のA1出口。ちょうど店員さんが電話対応で店までの道のりを説明しているのが聞こえたので知った。
冒頭の写真を見てほしい。私は、毎回A6出口から来ていた。頼んでもいないのに遠回り。人生ずっとそう。

そんな遠回りばかりしている私が買った本はこの三冊。
稲羽白菟の全著作&RECOMMENDSさんから「神様のたまご 下北沢センナリ劇場の事件簿(稲羽白菟)」
猫は本棚でまどろむさんから「丘の上の洋食屋オリオン(沖田円)」
猫と積読さんから「少年と犬(馳星周)」

さて、この文章を書いている時点ですでにほんまる神保町の営業時間は終了している。土曜日、一日かけて私の棚からは一冊も売れなかった。
次にお伺いするときまでに一冊くらいは売れていますように!

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