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ヴィッキーとヴァレンタインズ・デー💛

今日はヴァレンタインズ・デー。
仕事は休みだった。

ラッキー♬

というのも、ヴィッキーがヴァレンタインズ・デーに、チョコレートを配る計画をしていたからだ。
チョコレートを配りたくないわけではない。けれども、出勤したときにヴィッキーだけ配って、私が配らないのは居心地が悪い。私が配ることにより、お年寄りからの「ありがとう」をヴィッキーがひとり占めできなくなると、もっと居心地が悪い。

ヴィッキーは、お年寄りのことをいつも考えている。レストランに来ることだけを楽しみにしているお年寄りは多い。アン、ヴィッキー、そして私は、レストランでは、できるだけお年寄りの要望に応えて、楽しい時間を過ごしてもらいたいと考えている。
けれども、ヴィッキーはワンステップ上を望んでいる。
「私は、お年寄りのために、この場所を変える!」
壁に、ハートに切り抜いたピンク色の紙を貼ったり、窓にハートのシールを貼ったり、プレーンだったレストランの壁をポップに仕上げたのは彼女だ。テーブルの上の白い造花に、黄色い花を足したのも彼女だ。毎朝、元気いっぱい住民に声をかけ、それぞれの嗜好を理解し、ひとりひとりのことを考えてサーヴィスをする。
彼女は、ここで働き始めて3カ月くらいだけれど、すでにお年寄りに頼られて、人気を得ている。

そんな彼女はいつも言う。
「お年寄りは皆、私のことが大好きやねん!私が休みから戻ってきたら『あなたがいなくて寂しかったわ』って皆言うねん!」
なるほど、彼女のモチヴェーションはここにあるんだ。私は奪う気もないし、奪えるとも思っていないけれど、このポジションを奪う人が現れたら、大変だ。
彼女のしていることは正しい。けれども、ひとつだけ「ちょっとちゃうと思うけど・・・」と思うことはある。ミゼラブルなロイスへの対応だ。それはそれは冷たい。氷のように冷たい。
「私は彼女のために頑張った!他の人は皆変わったけど、彼女だけは変わらなかった。私はもうあきらめた!彼女のためにはがんばらない」
・・・すごいことを言う。この人は、ロイスを変えようとしたのか?彼女は環境だけではなく、老人を変えようとしているのか?すべての住民に愛されることが目標だったのか?
きっと”人は変えられない”ことに、ヴィッキーはまだ気付いていないのだろう。
ロイスが食事に来たときに、
「じゃ、私が行ってくるわ」
オーダーを取りに行った。
「・・・ここのはしょっぱくて食べられない・・・カロリーが高い・・・量が多い・・・食べるものがない・・・」
ブツブツブツブツ、ロイスは相変わらずだ。
私は、ヴィッキーが相手をしたくないなら、私がしようと思っただけだった。けれども、この行動は、ヴィッキーへの対抗と受け取られたらしい。
その日以降、ロイスが来ると、
「あなたの友達が来たわよ」
と嫌味を言われる。
・・・めんどうくさい。

とはいえ、従業員全員がロイスを嫌っているので、皆、ヴィッキーの味方だ。
何度か一緒に仕事をした、高校生のブルックリンは、優しい女の子だ。優しいブルックリンですら、
「ここの住民で大変なのはロイスだけよ。彼女以外は皆、いい人よ」
と言っていた。
ハワは、私より少し前に入った高校生だ。淡々と仕事をし、誰のことも悪く言わない。そのハワが、私の横に来て文句を言った。
「あの女の人、すごい意地悪・・・」
きっと、はじめてロイスの愚痴に付き合わされたのだろう。
食べ物に文句を言うので、キッチンのディレクターも、マネージャーも、彼女のことを嫌っている。
高校生はともかく、いい大人がロイスを嫌うのはどうかと思う。とはいえ、私も彼女たちを変えることはできない。

それでも皆が知らない(と思う)ロイスを私は知っている。
韓国人のキムは、体の半分が不自由で、車椅子生活だ。いつもキッチンに一番近いテーブルで、キッチンに向って食事をする。したがって、彼女が後ろを振り返らない限り、他のテーブルの住民と目が遭うことはない。
ある日、レストランが満席になったときに、アクティヴィティ担当の人が、その日の予定を言うために入って来た。
キムが振り返った。すると、ロイスだけがキムに手を振った。
他の住民がキムに意地悪なわけではない。けれども、ロイスは他の人より、体の不自由なキムに優しいんじゃないかな?と思った。彼女は理不尽なことを受け入れることができずに怒っているけれど、皆が思うほど、悪い人ではない気がしている。

ロイスを嫌うヴィッキーは”人は変わらない”ことに気付いていないけれど、”老人を楽しませたい!”とがんばっている点は、偉いなぁと思う。
ただ、もめると面倒くさそうなので、ヴァレンタインズ・デーは休みで良かった😁

明日は朝からヴィッキーと仕事だ。
住民に”ありがとう”を言われて幸せいっぱいのヴィッキーを観察してこよう♬

最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートは、社会に還元する形で使わせていただきたいと思いまーす!