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老人ホームの住民たちご紹介

以前、少しだけ住民の紹介をした。
仕事を始めたばかりだったので、まだまだ知らない人の方が多かった。
オーダーを取る時に名前を記入しなきゃいけない。
毎回、名前を聞くのは失礼だ。毎回、聞くのも気が引ける。

これは、全力で覚えなければならない。
住民の名前と特徴を書き出したメモを作った。
「なんでそんなことする必要があるのか、私にはわからん」
ヴィッキーの嫌味を無視して、メモを常に持ち歩いた。
その成果もあり、自分でも感心するくらい早く、住民の名前を覚えた。
数人は怪しいけれど、食事に来る人はほぼ完璧だ。

復習がてらに、第二回、住民紹介です。

【ジョージア】
小さくて、細いおばあちゃん。食べ物の名前を忘れちゃうし、言葉もスムーズに出ない。
「オ・・・オー・・・」
「オートミール?」
にっこり笑う。
「名前がわからない・・・Cから始まるの・・・」
「チーズオムレツ?」
にっこり笑う。
最初、わからなくて言い終わるのを待っていたために怒られた。今は仲良しです。

【マリア】
アイスランド人のマリアは、いつも綺麗なお洋服を着て、お化粧をして、食事に現れる。
私がひとりで仕事をした翌日、
「昨日は何時までお仕事をしていたの?疲れたでしょ」
私のことを心配してくれた。
「アイスランドはグリーンランドの隣なの。アイスランドは名前がよくないわよね。グリーンランドだったら良かったのに」
「あなたの名前はエイプリルだと思っていたの。エイプリルは素敵な名前だなって思っていたんだけど」
名前が気になる人なのかもしれない。

【ダナ】
昨年、ご主人を失くしたダナは、朝早く行くと、皆が利用するリヴィングルームで眠っていることがある。
優しい人なのだろう、自分の食事を、後から来た人に譲ってあげるので、なかなか自分の食事が始まらない。

【リズ】
大きな女性。
食事から部屋に戻るときに、コーヒーのクリーマーをごっそり持って帰る。

【デボラ】
ボス的存在。美しい声の持ち主。
テーブルに座った人全員、デボラのお話を聞かなければならない。
「デボラってどういう意味なの?」
「デボラはね、聖書に出て来るのよ。強くて、リーダー的な存在の女性なの」
名前のとおりの女性だ。
嫌われたら怖そうだ。

【ノーマ】
ボスNo.2。デボラの次のポジションっぽい。
デボラがいるときは大人しいけれど、デボラがいないときは、彼女がテーブルの中心になる。
「ノーマってどういう意味?」
「知らない!私は、この名前が嫌いなの」
同じ質問でも、答えは色々だ。

【ハンク&アナマリー】
仲良し夫婦(と思う)。
デキャフェのコーヒーと水、食べ物も同じものをオーダーする。アイスクリームのフレーヴァーも同じ。
食事が終わると、二人でリヴィングルームへ行き、ジグソーパズルをする。

【ホワイト&エリース】
夫婦ではないけれど、いつも一緒にいる。
ミスター・ホワイトは、時々うんこをつけて食事に来るので、とっても臭いけれど、エリースは気付いていないようだ。
エリースは、麦わら帽子をかぶり、絞り出すような声でオーダーをする。
実は普通に話せるらしいけれど、なぜ、話せないフリをしているのかは不明だ。

【パット】
ハキハキと話す、おもしろいおばあさん。
先日、顔にでっかい怪我をしていた。
「うわー!大丈夫?」
「スカーフェイスや」
「お、アルパチーノ・・・気を付けよう」
知っている映画で良かった。その日から仲良しだ。

【デイヴィッド】
おそらく他の人よりも若いと思うけれど、歩行器を使っている。
長身でスキンヘッドのデイヴィッドは、遠目で見るとつくしみたいだ。
いつも新聞のクロスワードをしている。
「俺は、MR.クロスワードやねん」
デイヴィッドは、韓国人のキムと同じテーブルによく座る。
「これ、あげる」
キムが、自分のデザートのプリンをデイヴィッドに差し出す。
「俺は自分の分があるからいいよ」
「ミックスしたらいいやん」
「俺はミックスするのは嫌いなんだよ」
よく見ると、食べかけだ。そりゃ、ミックスしたくない。
キムがどういうつもりで差し出しているのかわからないけれど、MR.クロスワードは、いつもキムに優しい。

【ダン】
新しく入った男性。他の男性より、少し若手だ。
「ハンバーガー?そんな子供みたいな食事はいらない!」
そう言っていたけれど、ピザは食べる。
次に会ったときは、チョコレートを美味しそうに食べていた。
アイスクリームもおかわりする。
どうやら甘党らしい。
「俺は、これまで何度も警察官に停められた。俺の見た目が問題らしい」
容姿は変質者+ホームレスだ。
非常に怪しいけれど、女性たちにとっては気になる存在らしい。

【アンジー】
ダンに興味を持っている女性のひとり。
アンジーは体が不自由なので、座るとき、立つときにヘルプがいる。
床に落としたイングリッシュマフィンを拾ってあげた。
「ごめんね」
「そんなん気にしなくてええよ」
ふと見ると、今にも泣きだしそうな顔をしている。
「大丈夫、大丈夫、みんな落としてるで。私も落とすし」
私は、こんな感じだけれど、励まし方は人によって色々だ。
ヴィッキーがアンジーに話しかけていた。
「感謝しなきゃ!そんなことで文句言うたらあかん。あなたは私より、ずっと幸せよ!」
その前の話を聞いていないし、アンジーのこともヴィッキーのことも知らないので、なんとも言えないけれど、現時点ではヴィッキーの方が幸せに見える。
ヒスパニックのヴィッキーと、白人のアンジーの人生を比べてそう言ったのか?
とはいえ、アンジーが「そうだなぁ・・・幸せだなぁ・・・がんばろう」と思えば、ヴィッキーの励ましは正解だ。
私には判断できないけれど、ちょっとビックリした。

色々な人生を歩んできた人たちがいる。
励まし方も色々違って当然なんだろうなぁ。









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