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【第25話】36歳でアメリカへ移住した女の話 Part.2

*このストーリーは過去のお話(2011年)です。
 これまでのストーリーはこちら⇩

 2011年、私のホンダ・シビックがご臨終になった。
 金曜日の夜のハイウェイ、韓国へ帰る友人を、空港まで送って行く途中だった。

「なんでこの場所で、今やねん!」

 というタイミングだ。
 ダウンタウンを過ぎてすぐの地点なので、100キロ近いスピードで、途切れることなく車が走っている。
 なんの恨みで・・・と思うけど、この車に愛を注いだ記憶はないので、最後に復讐されたらしい。

 慎重に時間をかけて車を探すダンナの気持ちを踏みにじり、彼が仕事へ行っている間にキャブを飛ばし、日本人のディーラーからりんごを買うように購入してきた車だ。

 この車にエアコンがないことを知ったのは、購入半年後の真夏だ。
 ずーっと車内に熱がこもり、動くサウナのようだった。
 走ればいいと思って買った車なので文句はない。
 けれども、愛着もわかなかった。
 愛がないので、ぶつけられてバンパーに穴が空いても全然悔しくない。
 鼠色のダクトテープをバリバリと貼っただけで、修理にも出さなかった。
 これじゃ、車から反撃されても仕方ない。

 その日、友人を乗せた私の車は、ダウンタウンを過ぎた途端、”カラカラカラカラ”と、不思議な音を奏で始めた。
 どう考えても、車が発する音ではない。
 帰国前のトークに夢中になっている友人は気付かないらしい。
 相談している間もなく、数珠繋ぎ状態の車の間をすりぬけ、なんとか側道まで移動した。
 たまたま広めのスペースがあり、そこに停車すると・・・

 コトン

 これまた聞いたことのない音を発すると、異常を示す、ありとあらゆるランプが点灯した。
 それっきり、エンジンをかけなおしても、ウンともスンともいわない。

 ご臨終~・・・

 いやいや、側道に停めるまで、よくがんばってくれた!
 とはいえ、マイカーの頑張りを褒めている場合ではない。
 私は、友人を空港まで送り届けなければならない。
 エンジンルームをのぞいてみた。
 のぞく前から何もできないことはわかっている。
 少し待てば、機嫌がなおって動くかも・・・。
 数分毎にキーを回してみたけれど「プルン」とも言わない。

 困ったな・・・と思って前方を見ると、なんと、20メートルほど先にパトカーが停まっていた。
 少し幅広の側道は、ポリスがスピード違反の車を停車させる、お決まりの場所だったようだ。

 グッドタイミング!!

 ポリスのところまで走って行って事情を説明した。

「私の代わりに友達を空港まで送り届けてください!」

「ポリスはそこまでできへん」

 まったく役に立たない。

「じゃ、何ができるの?」

「キャブは呼べるよ」

「お願いします」

 ポリスができることを依頼して、車に戻った。
 戻ったものの、すぐに来るかどうかはわからない。
 なんなら、来ない可能性もある。
 信用するわけにはいかない。
 そこで、ダンナにも電話をした。
 いっぱい小言を言われるか?と思ったけれど、

 「すぐ行く」

 と言って、電話が切れた。
 金曜日の夜だし、普通の人なら、どんなに早くても40分はかかる距離だ。
 けれども、ダンナは違う。
 警察の目を潜り抜け、13歳から運転しまくっているダンナは、どんな危険も、いかなる渋滞も、見事にすり抜け、颯のように現れる。
 この日も、驚く早さで我々の目の前に登場した。

 まずは、友人を送り届けなければならない!
 我々はダンナのトラックに乗り移り、空港まで猛スピードで走った。
 出発ギリギリ、別れを惜しむ時間もなく、友人と彼女の荷物を車から放り出し、すぐさま私の車まで引き返した。

 恐るべし早さで救助に駆けつけたダンナだけれど、電話を切った直後、AAA(トリプルエー:日本のJAFのようなもの)に電話もしていた。

「嫁の車がハイウェイで停まったから、すぐに牽引車手配して」

「ご本人様(会員であるダンナ)が現場にいらっしゃらないと、受付はできません」

 杓子定規なことを言われたダンナは、

「うちの嫁がハイウェイの上で身動きとられへんのじゃ!もうちょっとマシなことは言えんのかーーー!!」

 怒鳴り倒してから家を出てきたらしい。
 彼のこういうところが大好きです。

最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートは、社会に還元する形で使わせていただきたいと思いまーす!