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【第26話】36歳でアメリカへ移住した女の話 Part.2

*このストーリーは過去のお話(2011年頃)です。
 これまでのストーリーはこちら⇩

 前回の話はこちら⇩

 私の車がハイウェイの上でご臨終になった。

 再びシアトルで車探しだ。

 車がない間、ダンナに送迎してもらう。
 仕事へ行くときは、間に合うように送ってくれる。
 問題は帰りのお迎えだ。
 仕事が終わると電話をする。すぐに来てくれることもあるけれど、すぐに来ないことの方が多い。
 NBAの試合を見てしまうと大変だ。
 嫁のことなど頭からスコーンと消えるらしい。遅れるどころか、来ないこともある。

 シアトルに引っ越して以来、私は「待つこと」にうんざりしていた。
 シアトルに好きなアーティストが来るのを待つ、ダンナが演奏し始めるのを待つ、シカゴに帰れる日を待つ。
 それ以外は、たかが5分でも待ちたくない。
 多少不便でも、自分の時間は自分でコントロールしたい。

 バスを使ってみた。比較的時間通りに来る。
 こちらも行きはいいけれど、帰りは直通がないので、片道5分ほどの距離に、1時間以上かかる。
 歩いたほうが早いやん!

 ということで歩いてみた。
 片道45分、徒歩出勤初日は、仕事を始める前から足がつった。
 そのうち慣れるとはいえ、8時間の肉体労働の前後に45分のウォーキングはしんどい。

 自転車通勤を試みた。
 朝の空気は爽やかで気持ちいい。
 けれども、アップダウンがかなり激しいので、到着する頃には汗だくだ。
 ヘルメットを着用しなければならないので、髪もペットリのり状態。
 オフィスワークならともかく、客商売でこの姿はダメだ!
 会社に着いたらすぐさまトイレへ直行し、半裸になって噴き出す汗をぬぐう。

 いずれの方法もパーフェクトはない、ということだけはわかった。

 私が仕事に行っている間、ダンナはクレイグスリストというコミュニティーサイトで、売りに出ている車をチェックした。
「こんな車があるよ」
 友人や職場の仲間も探してくれた。

 中でも車好きの同僚は、自分の車を買うかのように盛り上がった。
 同僚はアメリカ育ちのベトナム人だ。アメリカ人特有の、我が一番という部分もあるけれど、両親ともベトナム人のせいか、礼儀正しく、義理人情に厚く、男は女を守るものという信念がある。
 男気があり、お顔もイチロー似のハンサム君だ。
 常に10の目標を持ち、ひとつ達成したら、他の目標をプラスする。
 車を買う、家を買う、歯をなおす、エトセトラエトセトラ。
 実際に、前回の車のローンを返済し終わり、次の新車を買い、家も買った。
 結婚以外は順調だ。
 彼の理想は「ビジネスと人生プランを持っている女性」だ。
 そんな女性がゴロゴロ転がっているとは思えない。
 さらに夫を立て、家事ができ、綺麗好きで、怠け者ではなく、健康管理ができる性格の良い女性を求めている。
 以前は、ブロンドという条件もあった。
「ビジネスと人生プランを持った、夫を立てるブロンドはおらん」
 私はいい続けた。
 40歳の彼は、生きていて困ることもないので、なんでもできると思っているけれど、”シングル”だからできるのだ。
 私も彼と同じ場所にいたことがあるからよーくわかる。
 彼も誰かと一緒に暮らしたら、思い通りに行かないことに気付くはずだ。

 人生をプランしまくるこの男は、私の車購入もプランする。
「ユミコは貧乏やから、故障の少ない日本車を選ばなあかん」
 購入した車がすぐに故障しても、私には次の車を買う実力がない。
 彼は、ホンダや日産の国産車を見つけては、私に教えてくれる。
 実に正しい。
 けれども、どうも盛り上がらない。
「どれでもええから、ダンナと相談して勝手に買ってきてくれ」
 と言いたいくらい盛り上がらない。

 ある日、家に帰ると、
「クライスラーのめっちゃカッコええのが出てるで~!」
 ダンナは慎重だけど、堅実とはかけ離れている。
 彼はアメ車が大好きだ。

 ・・・ひとめ惚れ💛

 日本車は故障が少なく、長く乗れる上に、燃費もバツグン。
 デザインも保守的で、私のシアトルライフを象徴しているかのようだ。
 私はすべてが地味~な、この生活にうんざりしていた。
 せめて車だけでも一発勝負で好きな車に乗りたい!

 私は同僚の親切を踏みにじり、彼の正しいであろう意見を無視し、ひとめ惚れした、クライスラーのコンバーチブル(オープンカー)を購入した。
 6シリンダーでガソリン代も高く、故障も多い。
 インテリアはレザー、見た目重視のアメ車だ!

車種は違うけど、これくらいカッコいい♬

 車もいいけど、こんばーちぶるな、ドキドキわくわくする人生に早く戻りたいぞ😁
 
 


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