毎週ショートショートnote「沈む寺」
夜の一番深いところを選んで、
この公園まで辿り着けば
後は誰も通り過ぎないことを祈るだけ。
公園の隅にある大きな土管の近くには
いつもの仲間たちが
燻した甘い臭いに包まれて集っている。
「おお、今日も来たんか。」
仲間の一人が俺の顔を覗き込むように言った。
夜もだいぶ冷え込むようになってきた季節だが、
この場所はいつも仲間の興奮と熱気が沸々としている。
「しっかし、ええんかねえ。寺の坊ちゃんがこんな悪いことしてえ。」
夜の外灯の光で色濃くなった煙の奥で
憎たらしい笑みを浮かべている仲間を尻目に
俺は何とか吐き気を飲み干した。
「だっておめえよ、これ終わったら寺に帰るんだろう?
いかれてるぜ、まったく。」
仲間たちの笑い声が
夢うつつの境に立っている俺の背中を
何度も突き刺した。
白ばんだ帰路、
ぼんやりとした脳を抱えて、
影の中に現れた実家の寺から
その横に聳える巨大な松の木に目線を移した瞬間、
視界の端で僅かに沈む寺を俺は確かに感じていた。
#毎週ショートショートnote
#沈む寺