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[小説] たぶんサンタさん

 小さな四角い部屋に男の子が一人、小さな窓から外を見ていた。男の子は今年で十二になる。小学校を終えて中学校に上がる、そんな年頃だった。
 部屋に一人男が入ってきた。男は白いタンクトップに赤いロングスカートを履いていて、背中には白い大きな袋を背負っていた。彼が歩くたびにそのでっぷりとした腹と袋がガチャガチャと揺れた。
 「メリーークリスマース!」
 男は片手をあげて叫び、袋を下ろして中からその辺で拾ってきたのだろう小枝と落ち葉を取り出し、男の子に渡した。
 男の子は眉間に皺を寄せて受け取ると、瞬間、腕をおおきく振りかぶって窓から外に放り投げた。
 タンクトップの男は驚愕し、男の子の肩を掴んで激しく揺すぶった。
 「何をするんだ!」
 「お前は騙してたんだ!」
 男の子は男をドンと突き放して窓から身を乗り出した。
 「待て!待て!」
 男は男の子に手のひらを突き出し必死に止めた。一歩でも近づくそぶりを見せると男の子は窓から身を更に乗り出した。
 「待てったら!話そう。私は話たい。落ち着いて。私が何を騙したっていうんだ?」
 「お前はサンタさんじゃないんだ!」
 「いーや。違うとも。全く困るな。誰から教えられたそんなこと。私はサンタだよ」
 「嘘だ!サンタは赤い服を着てトナカイが引いたソリに乗って白い髭を蓄えているんだ!お前はタンクトップじゃないか!」
 「違うさ、よーく見てみてよ」
 男は鷲のように手のひらを横に広げた。二の腕や頬は重力に引っ張られて弛み、タンクトップは黄ばんでそばに置かれた袋からはゴミがのぞいていた。
 男の子は涙を流して言った。
 「お前は裏切った。僕を裏切った!ずっとずっとお前がサンタだと信じていたのに!」
 「確かにサンタではないよ」
 男はついに折れた。ボロボロ泣き始めた男の子を見て自分も辛くなったのだ。
 「でも私も頑張ったんだよ。君を喜ばせようとして。できるだけサンタになろうとして頑張ったんだよ。でも私はくりますプレゼントをもらったことがないからわからないんだ。サンタに会ったことがないからわからなかったんだ。サンタは君に何をあげればいいんだ。教えてくれ」
 外から公園ではしゃぐ子供達の声が聞こえた。
 「信頼だよ」
 男の子はひらりと窓から飛び降りた。男は慌てて窓に駆け寄った。
 ここは一回だったので男の子は地面に着地して公園に向かって走っていった。
 男は散らばった小枝と落ち葉を袋の中に入れ直した。きつく口を縛って窓から放り投げた。数分経ってなんだかそわそわし出して、やっぱりと思って外に出て袋を取った。今度は大事に大事に抱えて部屋の隅に置いた。
 

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