H3ロケット試験機2号機打ち上げ成功!~ロケットと射場について解説~
H3ロケットの特徴とこれまでの経緯
H3ロケットは、日本が誇る次世代の主力宇宙運搬ロケットであり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業ら複数の民間企業によって共同で開発されました。このロケットは、従来のH-IIAおよびH-IIBロケットの技術的な遺産を継承しつつ、多くの革新的な技術を導入しています。H3ロケットの設計は、打ち上げコストの削減、信頼性の向上、打ち上げ能力の増強を主要な目標としています。特に、コスト削減に関しては、開発から運用に至るまでのあらゆる段階で効率化が図られており、全体的な競争力を高めるための重要な取り組みが行われています。
H3ロケットの重要な特徴の一つは、新開発のLE-9エンジンを主エンジンとして採用している点です。このエンジンは、従来のエンジンに比べて高い推力と効率を実現しており、H3ロケットの打ち上げ能力を大幅に向上させています。さらに、固体ロケットブースター(SRB)の改良により、様々な打ち上げ需要に柔軟に対応できるようになっています。
開発の経緯について、H3ロケットは2010年代初頭に計画がスタートしましたが、技術的な課題や開発遅延により、初打ち上げのスケジュールは数回にわたって変更されました。昨年、2023年2月17日にはTF1(試験機1号機)の打ち上げが試みられました。この時、1段機体システムが異常を検知したことで、固体ロケットブースタSRB-3への着火信号の送出が停止されました。この結果、予定された打ち上げは実施されませんでした。その後、JAXAは対策を施し、3月7日に再度打ち上げを試みましたが、この日の打ち上げでは、第2段エンジンへの点火が確認されず、ミッションを達成する見込みがないと判断されたため、指令破壊信号が送信されました。この問題の根本原因は、第二段エンジン「LE-5B-3」の電源系統における漏電にあったと特定されました。
試験機1号機の打ち上げから約1年後、2024年2月17日、H3ロケット試験機2号機が種子島宇宙センターから打ち上げられ、固体ロケットブースター、第一段エンジン、第二段エンジンそれぞれの燃料と切り離しに成功した後、2つの小型衛星を所定の軌道に投入し、打ち上げに成功しました。
1号機の失敗に続いて、2号機が成功したことで、H3ロケットは日本の宇宙技術の先端を行くプロジェクトとして世界に認知され、国際的な宇宙市場における日本の競争力を高めるための重要な役割を果たしたといえるでしょう。
日本のロケット打ち上げ場について、なぜ種子島なのか
日本の宇宙開発の拠点として知られる種子島宇宙センターは、その地理的、環境的特性から、ロケット打ち上げに最適な場所とされています。種子島は、鹿児島県南部に位置し、赤道に近い地理的な位置は、地球の自転を利用してロケットに追加の推進力を与えることができる、打ち上げに理想的な条件を提供します。この効果は、特に地球周回軌道への衛星打ち上げや、より遠い宇宙への探査ミッションにおいて、貴重な燃料の節約につながります。
また、種子島は人口密集地域から離れた、広大な自然に囲まれた場所にあります。これは、万が一の打ち上げ失敗や事故が発生した際の安全性を高める上で重要な要素です。海に面しているため、打ち上げ時の落下物のリスクを最小限に抑えることができ、安全に打ち上げを行うことが可能です。
種子島宇宙センターは、1969年の開設以来、日本の宇宙探査の歴史において重要な役割を果たしてきました。このセンターは、最先端の打ち上げ設備と、追跡・監視システムを備えており、国内外の様々な宇宙ミッションの成功に貢献しています。H3ロケットのような新たなプロジェクトにとっても、種子島宇宙センターは不可欠な基盤を提供し、日本の宇宙開発の未来を支える重要な役割を担っています。
2023年8月25日配信のTenchijin Tech Blogでは、ロケットの基本原理を解説し、ロケットの最適な打ち上げ場所をTenchijin Compassで分析しています。合わせてご覧ください。
種子島でH3ロケット打ち上げ見学記
ここからは今回のH3ロケット試験機2号機の打ち上げについて現地見学した弊社の相原の見学記を、現地での写真と共にお届けします。
今回、初めての打ち上げを見学するため、1月に恵美之江展望公園の見学場を予約しました。種子島内にはロケットを見る場所が複数あるらしく、中でも恵美之江展望公園は射点から最も近く、唯一事前予約が必要な公式見学場でした。2月の種子島は、桜が満開、まさに春爛漫といった様子で、桜の美しさが旅のワクワク感を一層高めてくれました。
恵美之江展望公園へは、フェリーと高速船が就航されている種子島の玄関口(西之表)から車で約40分。今回は種子島在住の知人の車で向かいました。到着したのは打ち上げ時刻の1時間前。このときすでに多くの人がスタンバイしており、期待と緊張が入り混じった空気が、展望公園一帯を包んでいました。
そして、いよいよロケット打ち上げの瞬間が到来。放送によるカウントダウンが公園内に響き渡り、周囲は完全に静まり返る。残りカウントがゼロに達した瞬間、大きな煙とともに明るい光が一気に広がり、その後にはバリバリ、ゴーゴーといった音が遅れて耳に届きました(語彙力w)。ロケットは力強く上昇していき、やがて小さくなり、見えなくなりました。その瞬間、感じたのはただただ圧倒的な感動でした。
打ち上げ後、島は一層の祝賀ムードに包まれました。島の各地にH3祝成功の旗が掲げられていました。とても心地の良い達成感が島全体を満たしていました。
最後に、
ロケットが大気を切り裂くように力強く上昇していく瞬間は、息をのむような美しい光景でした!何か人類の可能性が無限に広がる象徴のようにその光景は自分自身の心に深く刻まれました。
また打ち上げが成功した瞬間、周囲の人々と感動を共有し、島全体が幸福感で満ち溢れる様子は、とても心地の良い体験でした。到着時にも感じた暖かく豊かな自然ですが、恵美之江展望公園からの帰り道は種子島の自然の美しさをより深く感じ取ることができました。
天地人とH3ロケットとのかかわり
天地人は総務省が令和2年度から実施している「電波資源拡大のための研究開発」に採択され、国立研究開発法人情報通信研究機構、国立大学法人東北大学、三菱電機株式会社と共同で、通信衛星に関する研究開発を進めています。
本研究開発では、データ群をAI解析することにより、通信需要と気象/回線状況の予測技術を開発しており、この予測技術をJAXAの次世代通信衛星ETS-9で実証予定です。
この次世代通信衛星ETS-9は、今後H3ロケットで打ち上げることが予定されており、天地人としてH3ロケットの打ち上げを固唾をのんで見守っていました。
今回H3ロケットの打ち上げが成功したことで、今後打ち上げを控えている人工衛星の軌道投入にも道が開けました。今後のH3ロケットの安定的な打ち上げ体制の確立に期待が高まります。
余談
種子島宇宙センターのミュージアムショップには、天地人の”宇宙ビッグデータ米”が並べられていました!
(GISエンジニア/相原 悠平)
(衛星通信プロジェクトリーダー/木村紋子)
参考文献
https://www.rocket.jaxa.jp/rocket/h3/
https://www.rocket.jaxa.jp/rocket/engine/le9/
https://ja.wikipedia.org/wiki/H3%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88#
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今日から使える宇宙豆知識 by JAXAベンチャー天地人
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