見出し画像

今ある食文化を残すために。6月18日は「持続可能な食文化の日」


天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。
天地人に所属する学生インターンが、これは面白いと思った宇宙のトピックスを、定期的にお届けします。

天地人は、JAXA衛星をはじめとする地球観測衛星等から得られる宇宙ビッグデータを活用し、土地評価サービスを行う「天地人コンパス」をコアとした事業を展開しています。

天地人のミッションは、「人類の文明活動を最適化する」です。このミッションのもと、天地人は様々な分野の課題解決を行っています。今回は、「食」に関する天地人のプロジェクトを紹介します。


「持続可能な食文化の日」=「Sustainable Gastronomy Day」とは?

2016年、国連は毎年6月18日を「持続可能な食文化の日」と制定しました。この国際デーの目的は、世界中が持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、食の重要性を改めて考え、「食」に対して、持続可能な世界的な取り組みを促進することです。

「SDGs(持続可能な開発目標)」には、2030年までに達成すべき17の目標が記されていますが、食に関わる項目も含まれており「すべての人に健康と福祉を」という目標もあります。これに関連して、FAO(国連食糧農業機関)は、世界的に肥満の割合が急増する中、健康的で持続可能な食生活を誰もが手に入れられるようにすることが、より一層重要であるとしています。

FAOは、健康的で持続可能な食生活を手に入れるために以下の行動指針を発表しています。
1.地元の生産者から食材を買う
2.旅先で、行った先の地場の食材を試す
3.食文化を守る
4.フードロスを避ける
2030年までに健康的な食生活と飢餓ゼロの世界を実現するため、人類全員でこれらの行動を起こすことが必要であると発表しました。

現在、食料は生産や加工、流通、販売、消費、廃棄などをさまざまな人が担いながら、消費者に届けられています。
しかし、近年の地球温暖化による不作や、資源枯渇による水不足や、資材代の高騰などにより、食料の生産は非常に厳しい現状があります。

食に関する問題に立ち向かう、「天地人ファーム」

天地人は、食料生産に対する問題に立ち向かうため、天地人ファームを立ち上げました。日本の農業界も、気候変動に加えて、農業従事者の高齢化や不足、それに伴う耕作放棄地の増加などの問題に直面しています。日本の農業は、労働力の確保のため海外からの技能実習生の力に大きく頼っており、感染症による国外からの渡航禁止期間は大きな痛手となりました。

天地人ファームでは、さまざまな農業界の課題に取り組むため、「宇宙ビッグデータ米」「月面アスパラガス」のプロジェクトを立ち上げ、宇宙の視点から農業界を取り巻く課題に向き合っています。

米の問題に立ち向かう「宇宙ビッグデータ米」

農業に関わる我々が抱いている共通の危機感があります。それは「米が足りなくなる」ことです。日本の農業は、生産者の高齢化、減少にともない、今後の供給力への懸念が叫ばれています。また、温暖化や気候変動の影響により、米の生産量が減少するという予測もあります。

そこで、天地人は神明様と笑農和様と共同し、将来的なコメの生産増につながる農業施策として、宇宙の技術を活用した農業を確立するプロジェクトを立ち上げました。
2021年、3社の強みを活かして日本の米生産の課題解決を行う目的で「宇宙ビッグデータ米」プロジェクトを立ち上げ、米の栽培・収穫・販売を開始しました。

天地人の土地評価エンジン『天地人コンパス』を活用し、神明の独自品種の栽培最適地を日本全国から探し、山形県鶴岡市での栽培を決定しました。

栽培には、笑農和のスマホで水管理を自動化できる『paditch(パディッチ)』を活用。夜間の冷たい水を何時間取り入れることが水温に影響を与えるかを意識し、自動制御を行いました。

宇宙ビッグデータ米は、「気候変動に対応したブランド米をつくる」ことをひとつの目的としています。近年、地球温暖化によって「高温障害」が多発しており、お米の外観品質の劣化と食味の低下が懸念されています。我々はこの問題に関して、圃場選びや水の管理で回避できると考えており、引き続き我々の栽培方法が有効かを実証する予定で、2023年現在も、宇宙ビッグデータ米を栽培中です。

米から、アスパラガスへ。「月面アスパラガス」

「月面アスパラガス」の栽培は、「宇宙ビッグデータ米」の経験を活かした、新しい挑戦です。

アスパラガス栽培の現場も、かなり厳しい現状があります。アスパラガスの病害虫が、地球温暖化や気候変動により発生しやすくなり、アスパラガスの生産面積と生産量は減少しています。

このプロジェクトでは、過酷な環境である月面においても通用するアスパラガスの栽培方法を探求し、得られた知見を地球の農業に応用することで、現在の農業が抱える課題解決に貢献したいと考えています。

「月面アスパラガス」は、宇宙飛行士が宇宙に近い環境に段階的に移行して訓練するのと同様に、月面でのアスパラガス栽培を最終目標として、段階的な研究開発を進めています。

Phase1:通常の畑で美味しいアスパラガスを栽培する
Phase2:耕作放棄地で美味しいアスパラガスを栽培する
Phase3:過酷な環境もしくは限られた資源で美味しいアスパラガスを栽培する
Phase4:月面で美味しいアスパラガスを栽培する

2022年は Phase1として、栽培適地でアスパラガスを栽培しました。本当に美味しいアスパラガスを作り、その価値を消費者の皆様に実感していただくこと、今後、耕作放棄地などの悪条件の土地で美味しいアスパラガスの栽培を試みるにあたって必要なノウハウを蓄積することなどを目標としていました。

天地人ファームは Phase1 で、栽培が最も難しい野菜と言われているアスパラガスの栽培ノウハウを蓄積でき、美味しいアスパラガスの栽培に成功しました。
2023年5月まで収穫していた「月面アスパラガス」は、2023年3月7日に新しく渋谷にオープンした「テンキ」などに出荷し、グランドメニューとして人気を博しました。

2023年からは、アスパラガスだけでなく他の作物も何年も栽培していない「荒れた土地」などでの実証を行う予定です。

「宇宙ビッグデータ米」と「月面アスパラガス」。共通する軸

天地人ファームは「米」と「アスパラガス」が軸となり、この2つのプロジェクトが進んでいますが、どちらも同じ考えのもと、プロジェクトを進行しています。

「宇宙ビッグデータ米」も「月面アスパラガス」も根本には、「地球の農業の課題を解決したい」という想いがあります。しかし、生産現場と、研究や行政の間には距離があり、さまざまな課題を把握・解決するためには時間がかかる事が問題とされています。天地人ファームでは、農地探しから栽培・収穫まで携わり、農業に関わる皆様と同じ視点で課題解決したいと考えています。

アスパラガスや、米の生産現場を取り巻く現状は厳しいです。茶碗に入った白いご飯や、アスパラガスの肉巻きといった今では誰もが想像できる料理も、将来、食べられなくなるかもしれません。天地人ファームは、農業界の課題に向き合っていますが、その結果得られた知見を活用することで、世界中にあるさまざまな食文化を後世に残す事ができると考えています。

「持続可能な食文化の日」の目的でもある「食」に対して、持続可能な世界的な取り組みを促進するため、今後も、天地人ファームは、生産現場のリアルな課題をいち早く収集しながら、土地評価エンジン「天地人コンパス」を活用し、「宇宙で農業の課題解決」を行っていきます。

文・鈴木海斗