見出し画像

天地人が注目する今月の宇宙ニュース ~衛星通信編~ Vol.2

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

天地人が注目した5つの海外ニュースを紹介します。
今回は、米軍小型衛星の実証実験や、商業航空機初の民間衛星通信コンステレーションを利用したブロードバンドサービス開始、学生企業が開発した遭難船の救助に役立つ装置についてなど。
それぞれについて、天地人の専門家が、ニュースの注目ポイントや今後の動向を解説します。


天地人が注目したニュース5選! 

ニュース1:米軍の小型衛星2基が宇宙空間で光通信の実証実験に成功

米国国防高等研究計画局(DARPA)により、米軍が世界中の基地や武器と通信するための小型通信衛星コンステレーション構築を目指す「ブラックジャック計画」が進行している。計画の初期リスク低減飛行として、昨年夏に打ち上げられたAbleとBakerの2つの人工衛星が、今年4月に40分間のレーザー光通信実験に成功した。

出典:Two Military Satellites Just Communicated With Each Other Using Space Lasers, GIZMODE, https://gizmodo.com/military-satellites-communicate-with-space-lasers-1848944526


ニュース2:Terran Orbital社、CENTAURI-5衛星をケープカナベラルに出荷

Terran Orbital社は、SpaceX社のTransporter-5打上げに向け、2022年5月にCENTAURI-5衛星をケープカナベラルに輸送した。CENTAURI-5は、Fleet Space Technologies社が国際的な通信ソリューションを提供するためTerran Orbital社に委託している衛星で、衛星の能力を最大限に引き出す、世界初の3Dプリントによる全面金属製アンテナを実装している。

出典:Terran Orbital Ships Fleet Space CENTAURI-5 Satellite to Cape Canaveral for SpaceX Transporter-5 Launch, SPACE REF, http://www.spaceref.com/news/viewpr.html?pid=60151


ニュース3:機械学習が未来のハイテクシステムの制御性能を向上させる

次世代ハイテクシステムの高まる性能要求と低コスト化を両立するには、今後ますます高度な知的制御装置が必要になる。Noud Moorenは論文で、豊富なデータから学習し、アルゴリズムの自動更新やデータ構造の認識が可能な機械学習・制御分野の新技術が、将来の制御性能の向上に繋がる可能性について述べている。この論文で提案された知的制御装置の利用例として、衛星間の光通信を行う際の高精度制御が挙げられている。

出典:Machine learning improves control performance for future high-tech systems, Tech Xplore, https://techxplore.com/news/2022-05-machine-future-high-tech.html


ニュース4:Gogo Business Aviation、LEOグローバルブロードバンドサービスを利用開始

Gogo Business Aviation社は今年5月、低軌道(LEO)衛星コンステレーションで提供されるインターネット通信を利用する機内WiFiサービスの開始を発表した。OneWeb社が提供予定の衛星通信を利用する。商業航空においてLEO衛星コンステレーションが提供するインターネットが利用されるのは初。商業航空機に搭載しやすい電子制御アンテナをHughes Network Systems社と共同設計した。

出典:Gogo Business Aviation to Launch LEO Global Broadband Service, CISION PR Newswire, https://www.prnewswire.com/news-releases/gogo-business-aviation-to-launch-leo-global-broadband-service-301552495.html


ニュース5:学生企業が漁師の救出に役立つ装置を開発

オマーン、マスカットのソハール技術応用科学大学の学生企業が開発した「エティエンヌ」は、漁船に取り付けることで、転覆や沈没といった船の緊急事態をセンサーで感知し、自動的に救難信号を、衛星通信で送信することができる。遭難者の救助への迅速な対応に繋がると期待されている。

出典:Student company creates device to rescue fishermen, MUSCAT DAILY, https://www.muscatdaily.com/2022/05/22/student-company-creates-device-to-rescue-fishermen/


天地人はこう読む

以下では、本記事で紹介した5つのニュースがなぜ注目されているか、どんなトレンドが今後起こりそうかなど、天地人の専門家の見解を記します。

  • 前半2つのニュースは、「JAXAと天地人を兼業する通信衛星開発・運用エンジニアである稲岡」の見解

  • 後半3つのニュースは、「天地人において通信衛星向けAIプロダクトの開発マネージャーである木村」の見解


ニュース1:米軍の小型衛星2基が宇宙空間で光通信の実証実験に成功

米国は商用に加え、軍事用でもメガコンステレーションの構築を進めています。

米軍が従来の電波を用いた通信ではなく、光通信を軍事用の衛星通信に用いようとしているのは、「伝送ビームの指向性が高いこと」が大きな理由であると考えられます。

伝送ビームの指向性が高いと、光が遠くまで伝播しても、空間的にビームが広がりません。そのため、受信したい場所にピンポイントにビームを送ることができます。

このように、指向性が高いほど傍受が難しく、秘匿性に優れているため、軍事用に光通信が採用されたと考えられます。


また、このニュースでは、宇宙用に製作されたものではない汎用品の光通信装置による送受信についての実証実験に成功したと記述されていました。

高価かつ長納期な宇宙用の装置と比較して、汎用品は安価かつ短納期という利点があります。

しかし、汎用品は宇宙環境(振動、熱、放射線)に耐えうるかの評価が必須であるため、宇宙での実証実験が必要です。


米国で低軌道でのメガコンステレーションの構築が進められている一方で、日本は、静止通信衛星の商用世界市場において、2020年代のうちに一割程度のシェアを獲得することが目指されています。

現在は低軌道での通信衛星コンステレーションが急速に増加していますが、つい最近までは、通信衛星は静止軌道を用いるのが主流でした。今後も静止軌道の通信衛星は、引き続き安定した需要が見込まれています。

具体的には、日本では技術試験衛星9号機(ETS-9)の開発が進められています。
天地人も、周波数リソース効率化の観点で、回線状況や通信需要の変化をデータ解析に基づき予測を行う、気象状況予測サブシステムならびに移動体需要予測サブシステムの研究開発の担当として参画しています。

また衛星コンステレーションにおいても、日本の宇宙政策ロードマップである宇宙基本計画工程表に、「小型衛星コンステレーションに関する重要基盤技術の獲得に向けた取組」が明記されています。

この取組の中で、小型衛星コンステレーションの重要基盤技術としている低軌道衛星間光通信、軌道上自立制御技術等について、可能な限り早期の実証衛星打ち上げを念頭に進める旨が示されています。

この取組を通じて、日本の衛星コンステレーションのキャッチアップが期待されます。


以降の内容は有料となります。
(この記事のみ購入する場合は200円です。月に3~4記事が月額500円になるサブスクリプションプランもご用意しております。)

記事に関するご感想・記事の内容のリクエスト等がございましたら、info-note@tenchijin.co.jpまでお気軽にご連絡ください。

ここから先は

3,178字
この記事のみ ¥ 200