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天地人が注目する今月の宇宙ニュース~ リモートセンシング編〜Vol.21

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
天地人が注目した4つの海外ニュースを紹介します。

今回は、
Orbital Eye、200万ユーロの資金調達に成功
南半球の水の危機:気候変動と人間の活動の影響
革新的なテクノロジーで海面上昇と戦う
衛星による河川モニタリング技術により洪水への早期警戒が可能に
について取り上げます。
それぞれについて、天地人の専門家が、ニュースの注目ポイントや今後の動向を解説します。


1.天地人が注目したニュース4選!

ニュース1:Orbital Eye、200万ユーロの資金調達に成功

オランダを拠点に、石油・天然ガスパイプラインの監視・検査サービスを提供するOrbital Eyeは、新たな資金調達により、200万ユーロを確保したと発表した。この資金調達は、S[&]T Venturesが主導し、また、オランダ企業庁(RVO)およびMinisterie van Economische Zaken en Klimaat(訳:経済気候政策省)の支援も含まれている。最高経営責任者(CEO)であるSven van Haver氏は、今回の資金調達により、さらなるAIの活用と、衛星ベースの監視ソリューションの自動化を目指し、ネットワーク規模に関係なく、あらゆる市場の顧客に高品質なサービスの提供の可能性を述べた。

出典:https://siliconcanals.com/crowdfunding/orbital-eye-secures-2m/


ニュース2:南半球の水の危機:気候変動と人間の活動の影響

南半球は気候変動に対して脆弱で、北半球よりも多くの水を失っていることが最近の研究で明らかになった。特に南アメリカ、アフリカ南西部、オーストラリア北西部が最も影響を受けている。原因としては、南半球は陸地が少ないため気候変動による影響が強く、特にエルニーニョ・南方振動が与える水損失への多大な影響が挙げられる。一方で、人間の活動も大きな要因であり、人為的な貯水池は世界の水の利用可能性の変化の57%を占め、乾燥地域や半乾燥地域ではほぼ100%に増加した。中東と中央アジアでは河川流量の70%が減少し、これは主に干ばつやダム建設、河川の分水など人間の活動に起因している。

出典:https://eos.org/articles/global-water-loss-happens-almost-entirely-in-the-southern-hemisphere


ニュース3:革新的なテクノロジーで海面上昇と戦う

地球温暖化による海面上昇とそれが世界中の沿岸コミュニティに与える影響は、GIS(地理情報システム)専門家たちの間でも課題となっている。アメリカ合衆国バージニア州ノーフォークでは、最新のテクノロジーと戦略的計画を活用して住民、軍事基地、企業の安全を守るためにグリーンインフラの保護と強化に取り組まれている。ノーフォークは、170万人以上の住民と15の軍事基地を持つ大都市圏の中心地で、年間15〜19日の洪水が発生している。その対策として「Coastal Storm Risk Management (CRSM) Project」を実施し、ESRIのマッピングとGIS技術を活用して、将来の脆弱性やリスクの高いエリアを特定し、沿岸適応と保護努力を試みる。
また、Center for Geospatial Science, Education and Analytics (GeoSEA)という研究施設の役割にも注目が集まる。GeoSEAは、NASAやNOAAのデータを活用し、海面上昇の予測シナリオから、浸水リスクマップなどを開発しており、コミュニティや地方政府と協力しながら研究を進め、高水位シナリオのモデル化や、重要インフラ周辺の浸水域を3Dで可視化に取り組んでいる。

出典:https://www.directionsmag.com/article/12764


ニュース4:衛星による河川モニタリング技術により洪水への早期警戒が可能に

グラスゴー大学の研究によると、衛星の軌道上から河川の流れを監視する方法は、洪水リスクに対する貴重な早期警報システムを提供できる可能性があると主張されている。同大学の地理地球科学部の研究者が開発したこの技術は、軌道上から撮影したビデオ映像を分析して河川の流れの速度を測定するもので、現在の政府や土地管理者による河川を監視する方法に取って代わるか、それを強化して洪水の予測方法を改善する可能性があると考えられている。

ビデオセンサーを搭載した衛星は、広範囲の視覚的情報を収集できるため、地理的な経時変化を監視したり、洪水の広がりをリアルタイムで把握したりする点で活用できる。ビデオ映像のフレーム間で目に見える表面の特徴の動きを追跡・分析することで、水の流れの速さを推定する。さらに、流速の推定値を浸水地域の詳細な標高マップと組み合わせることで、洪水時に河川の流量計が実際に測定した流量の15%以内の流量を推定することが可能となる。これにより、予測と警告が改善され、困難な状況下での現場計画で活躍する可能性が示唆されている。

出典:https://www.theengineer.co.uk/content/news/satellite-based-river-monitoring-technique-could-provide-early-warning-of-flooding


2.天地人はこう読む

以下では、本記事で紹介した4つのニュースがなぜ注目されているか、どんなトレンドが今後起こりそうかなど、天地人の専門家の見解を記します。
ニュース1は通信衛星向けAIプロダクトの開発マネージャーである木村
ニュース2はJAXAとの兼業社員でリモートセンシングの専門家である小川
ニュース3はGISスペシャリストで、水道管漏水技術開発をリードする相原
ニュース4はWater watch αの開発者でもある衛星画像解析エンジニアの庄
の見解を記します。

ニュース1:Orbital Eye、200万ユーロの資金調達に成功

Orbitaleyeは2012年創業のオランダのスタートアップです。衛星画像と機械学習を活用した石油・天然ガスパイプラインのモニタリング・異常検知サービス「COSMIC-EYE」が主力プロダクトとなっています。

オランダでは、従来パイプラインのモニタリングにヘリコプターを用いることが多かったようですが、ヘリコプターの飛行コストが高いこと、コストが高いために高頻度でモニタリングができないことが課題となっていました。そこで、Orbitaleyeでは、人工衛星(主に欧州宇宙機関ESAが打ち上げたSentinel-1とSentinel-2)から取得する合成開口レーダー(SAR)画像と光学画像を機械学習することにより、ほぼリアルタイムでパイプライン周辺の異常を検知するサービスを開発、展開しています。

Orbitaleyeが検知している異常は、パイプラインの損傷につながるような車両や物体、地形の変化です。具体的には、SAR画像で車両、物体、地形の変化を検知し、光学画像で検知した異常が何かを分類しています。

パイプライン周辺の重機をSAR画像を用いて検知する例
出典:Orbitaleye
パイプライン周辺の地形変化を光学画像で比較した例
出典:Orbitaleye

Orbitaleyeの「COSMIC-EYE」サービスは、Gasunie社(オランダの天然ガスパイプライン運営会社)で実証が進んでいるほか、オランダの上水道サービスを提供するDunea社、PWN社、Waternet社の3社でも導入が進んでいます。

天地人が展開する「宇宙水道局」は、人工衛星から得られるデータと自治体や企業が蓄積してきたデータを掛け合わせ水道管の漏水リスクを評価するものです。同じく人工衛星から得られるデータを用いて、水道管周辺の異常検知を行うという別角度のサービスがあるというのは、弊社にとっても良い刺激となります。
今後も国内外のリモートセンシングデータサービスを注視し、弊社のサービスをより良いものとしていきたいと考えています。

(解説:プロジェクトマネージャー 木村)



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