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宇宙から救う、水道管の老朽化~天地人の漏水リスク評価管理システム~

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。
Tenchijin New Age Blogでは、天地人に所属する学生インターンが、これは面白いと思った宇宙のトピックスを、定期的にお届けします。

天地人では、社会インフラにおける管理業務全般の効率化に着目しています。今回の記事では、「水道管の老朽化」というキーワードから紐解きながら、衛星データと水道管データを組み合わせた「漏水リスク評価管理システム」について紹介します。このシステムは、漏水原因や箇所、管の劣化状況を多角的な視点から分析し、漏水リスクの5段階判定や自治体のニーズに合わせた評価結果を表示・管理することができるため、従来の漏水調査手法よりもコストと時間を削減します。


1. 老朽化が急進している水道管の現状をご存じですか

みなさんの日々の生活に欠かせないインフラの一つ、水道。特に馴染みがあるのが、飲料水等の生活で使われる上水道ではないでしょうか。上水道は、川・湖から水をくみ取って、各家庭に水が届けられるまでの一連の流れを支えるインフラです。

日々安定供給されている上水道ですが、日本が直面する人口減少等の様々な課題と無縁ではありません。では、どのような課題があるのでしょうか。厚生労働省が発表している資料で挙げられている課題を見てみましょう。(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000067513_2.pdf

まず、一番重要な課題は「インフラの老朽化」です。水道管の法定耐用年数は40年と言われています。1960年代の高度成長期に整備された水道インフラは、20年以上も前に更新の時期となっていますが、整備資金が十分に準備できず、更新が進んでいないのが実態です。

なぜ整備資金が集まらないのか。それは、人口減少が関係しています。人口が多い時代に整備した水道インフラを維持したまま、水道による料金収入が減っていくので、採算をとるのが難しくなってきています。したがって、整備資金が確保できず、水道管の老朽化がますます進んでいくのです。

そして、「水道職員の減少」も課題のひとつです。水道インフラの規模は変わらないまま、水道職員数が減少しています。水道職員の減少により、小規模自治体では平均1~3人の職員で運営を行っています。このため、災害時の断水の復旧に時間がかかるといった実害があるほか、日々の維持管理が行き届かなくなっています。

2. 課題となる漏水

水道局の採算がとれなくなり、水道管が老朽化、水道職員の減少で適切な維持管理ができなくなってくると、水道の漏水が発生しやすくなります。
厚生労働省やJICAの資料によれば、漏水が発生すると、本来は我々の飲み水などになるはずの水が、地面に染み出してしまうことになります。さらに、漏水箇所から土・砂が入り込み、水質低下につながるほか、漏水による水道管の圧力低下が起こると、家庭での断水につながる等、水道サービスへの著しい影響があります。また、地面への染み出しによる道路・私有地への影響も見過ごせません。
このため、水道局では漏水を早期に発見し、すぐに修理をすることが重要となっています。しかし、水道局が行う漏水検知は、効率的に点検することが難しい点が新たな課題としてあります。その理由は以下の通りです。
・点検をすべき水道管の長さが非常に長い
・点検が目視や音に頼ったもので人手がかかる
・点検をしたくても人手や予算が足りなくて、点検しきれない
・必ずしも古い水道管からのみ漏れるわけではなく、どこから点検していいかわからない

水道事業がこのような課題を抱えている中で、水道局と協力して課題の解決を試みたり、業務委託を受けたりしているのが天地人です。

3. 株式会社天地人とは

2019年設立の株式会社天地人は、地球観測衛星等から得られる宇宙ビッグデータを活用し、土地評価コンサルを行っているJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。2022年12月、JAXAから初めての出資を受け、資金調達をし、衛星データの新しい活用方法の開拓や、事業拡大に努めています。

天地人は、これまでいくつもの新規事業やスタートアップの立ち上げを経験してきたCEOの櫻庭と、JAXA職員でもあるCOOの百束が出会い、内閣府主催の宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト「S-booster」に挑戦。トリプル受賞をしたことがきっかけで立ち上がりました。

天地人は、JAXAの職員が兼業で働いている日本でも珍しい宇宙ベンチャーです。その強みを活かし、内閣府から宇宙開発利用大賞を受賞。ほかにも、国内外のコンテストで9つの賞を受賞しています。

<受賞例>
・内閣府 宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster 2018」トリプル受賞(2018.11)
・グローバル宇宙ベンチャーコンテスト「Gravity Challenge」優勝(2021.10日本初)
・内閣府「宇宙開発利用大賞」農林水産大臣賞(2022.3)

また、共同研究や実証実験等も行っており、新たな衛星データの活用の可能性を広げています。

<共同研究・実証実験・協業等>

・ 宇宙ビッグデータ米プロジェクト(2019.10/(株)神明業務提携)

天地人は、米卸で国内大手の株式会社神明ホールディングスと、宇宙技術を活用した農業の確立を目的に、業務提携契約を締結しました。過去から現在に至るまで膨大に蓄積された衛星データを「天地人コンパス」で解析し、収穫量が増える圃場や、より美味しく育つ可能性のある圃場を見つけ、米農家と協力し米の栽培を行います。我々はこの米を「宇宙ビッグデータ米」と名付けました。
農業での生産者の高齢化・減少による、米不足の対策として本プロジェクトは注目されており、2022年9月24日、テレビ朝日「サタデーステーション」において『温暖化で迫る「和食の危機」…”宇宙の目“で立ち向かうJAXA職員の挑戦』というテーマで宇宙ビッグデータをご紹介いただきました。(リンク:https://twitter.com/i/events/1573631062470983686?s=20)

・ 総務省 電波資源拡大のための研究(2020.5)

国立研究開発法人情報通信研究機構、国立大学法人東北大学、三菱電機株式会社と共同研究開発チームを編成し、総務省が令和2年度から実施する「電波資源拡大のための研究開発」における提案公募に採択されました。本研究開発は、技術試験衛星9号機(ETS-9)に代表される次世代のハイスループット衛星を用いた衛星通信システムにおいて、5G網など地上の通信システムと円滑な接続を実現しつつ、周波数リソースをより効率的に利用するための仕組みの構築を目指すものです。天地人は、スタートアップのアイデアや機動力を発揮しつつ、これまで培ってきた気象解析技術やAI技術(機械学習技術)を活用して、気象状況予測サブシステムならびに移動体需要予測サブシステムの研究開発を担当します。

・ JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ 共創活動(2021.7)

天地人はJAXAと共に、「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」のもと、「宇宙ビッグデータ米の栽培における「しきさい」由来の水田環境プロダクトの開発」に向けた共創活動を開始しました。「しきさい」が取得するデータを基にした新たな解析アルゴリズムを共同で開発し、開発した水田環境プロダクトを宇宙ビッグデータ米の栽培に活用します。人工衛星からの客観的なデータを用いて稲の栽培環境をモニタリングすることで、農家の負担軽減と、タイムリーな水量管理を目指します。


宇宙ビッグデータは現在様々な分野で注目・活用されています。そのため、天地人はテレビや新聞などのメディアからの取材も多く、多方面から注目されています。
・2021/5/2掲載 北日本新聞「JAXA系企業と実証実験 宇宙技術でうまいコメ」
・2021/9/15放送 NHK world
・2021/10/21放送 日本テレビ「日テレニュース」宇宙開発最前線4市場40兆円宇宙ビジネス
・2021/11/28放送 日本テレビ「真相報道バンキシャ!」
・2022/6/3掲載 日本経済新聞「AGSUMスタートアップ特集」他

4. 天地人と水道事業の関わり

天地人では現在、水道管路の漏水リスク評価手法及び漏水支援ツールの実証実験を豊田市上下水道局と実施しました。
豊田市は、愛知県のほぼ中央に位置する人口約42万人の中核市で、面積は県全体の17.8%を占めます。豊田市が発表した資料(注1)によれば、平成30年の時点で、法定耐用年数を超える水道管は450kmであり、20年後には2300kmまで増加するとされています。つまり、今後更なる老朽化が見込まれ、水道管の更新を計画的に進めることが課題となっていました。
(注1)豊田市(2021)広報とよた2021年7月号特集私たちのくらしと水道
2020年から豊田市は、音聴棒を用いた路面音聴調査によって漏水調査を実施する予定でしたが、調査期間の短縮と漏水箇所の特定が容易な、衛星画像を活用したAI解析による水道管の漏水調査に注目し、2020年から実証実験を開始しました。
その後、天地人にお声がけいただき、漏水可能性区域の判定精度のさらなる向上を目指し、2022年2月から、フジ地中情報株式会社と天地人と連携して、衛星画像から高精度で漏水可能性区域を判定する実証実験を実施することとなりました。
豊田市から漏水修繕データ・漏水調査支援ツール開発のための情報を提供していただき、弊社が水道管路の漏水リスク評価手法・漏水調査支援ツールを開発しました。2022年7月から、データ検証、アルゴリズム開発・精度検証(現地調査)、システム開発を行い、2023年3月頃に支援ツールが開発され、サービス展開を始めています。参照:https://www.city.toyota.aichi.jp/pressrelease/1047869/1047886.html
上記の取り組みに関して、漏水リスク管理システムに言及した取材も多く、昨年だけで6件ほどありました。メディアを通して、天地人の水道向けソリューションを多くの人に知っていただく機会につながっています。
・2022/02/01掲載 UchuBiz「天地人、水道管の漏水可能性を衛星画像で判定–豊田市全域で的中率6割を目指す」(リンク:https://uchubiz.com/article/new1149/
・2022/09/21掲載 日経新聞「インフラ維持 技術で支え 【天地人】地表データで漏水分析」
・2022/07/11掲載 宙畑「ブルーカーボンのエリア評価など内閣府の衛星データ利用モデル実証に5社が採択【宇宙ビジネスニュース】」(リンク:https://sorabatake.jp/27712/
・2022/07/09掲載 AMP News「JAXAベンチャー天地人、内閣府 宇宙開発戦略推進事務局のプロジェクトに採択 豊田市上下水道局と水道管路の漏水調査支援ツールを実証」(リンク:https://ampmedia.jp/2022/07/09/tenchijin-project/
・2022/12/26掲載 宙畑「愛知県豊田市が「水道管凍結注意マップ」を公開。地表面温度データをもとに、注意度を3段階で表示」(リンク:https://sorabatake.jp/30068/

5. まとめ

今日の水道事業において、インフラの老朽化や人手不足が原因で、適切な維持管理ができなくなることによって起こる漏水は、早急な対策が必要となります。天地人は、「宇宙ビッグデータを使い、人類の文明活動を最適化する」というミッションの元、目に見えぬ土地の価値を明らかにし、水道事業が活性化を目指しています。より住みやい地球を作るためのきっかけ作りのお手伝いを、今後もより一層行っていきたいと思います。


(学生インターン 寺田)

【参考文献】
https://www.jica.go.jp/activities/issues/water/ku57pq00002o8he5-att/T5_jp.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/000675189.pdf
https://www.soumu.go.jp/main_content/000144998.pdf
https://toyokeizai.net/articles/-/340217?page=2
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ncr/18/00118/030400007/