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Gomes The Hitman ライブ・レビュー 2024.7.14 吉祥寺スターパインズカフェ

吉祥寺スターパインズカフェの開店27周年記念ライブとして「町あげての収穫祭」のタイトルで行われた。27周年にちなんで27曲を演奏するというやや無謀とも思える試みだが、彼ら自身が27年前に演奏していた初期の曲を多めに盛りこむなどのサービスもあり、楽しいライブになった。

また、冒頭の6曲はチャットGPTに演奏曲を入力して曲順を決めさせたものということで、確かに意外性があるというか、「ここでこれ!!」的な新鮮さのある導入になった。全編をチャットGPTの提案どおりにしてみても面白かったかもしれないがリスクが高すぎてムリか。「チャットGPTは絶対曲聴いてなくて曲名とかから適当に決めてる」と山田が断定していたのがおかしかった。

27年前はゴメス・ザ・ヒットマンとしてはインディーズからCDを出していたころということで、当時の曲をまとめてメドレーに近い形で披露(これで曲数を稼いだ)。山田が「あらためてやってみるとネオアコというよりフォーク」と言うとおり、この時期の曲は完成度にバラつきがあり、山田の若い自意識や世界観がこちらが気恥ずかしいくらい前に出ていて、聴く機会は正直多くない。ライブでまとめて聴くことができたのは貴重な機会だったかもしれない。

しかし、ここを起点にほぼ編年体で演奏されたこの日のライブでは、むしろこの時期の曲を丁寧に拾いあげたからこそ、それが山田の意図であったかどうかはともかく、ゴメス・ザ・ヒットマンというバンドや、山田稔明というソングライターの成長をはっきりとあとづけることができたと思う。

メジャー・デビューを機にポップ・ソングとしての完成度がグッと上がったのは、『光と水の関係』や『雨の夜と月の光』を聴けばはっきりしているが、この時期に並行して進んでいたのは山田のシンガー・ソングライター的な資質の開花であり、それはインディーズ時代の自意識や世界観が対象化され、整理されて「作品」に落としこまれるプロセスであったと思う。

このライブで演奏された曲でいえば『何もない人』や『思うことはいつも』(僕がもっとも好きな曲のひとつだ)にそれは表れている。自分の素朴な感情や実感を一度手に取って、自分とは切り離した対象として眺めたうえで表現として取りこむ、その作業がより自覚的に、意識的に行われるようになったことで、ひとつひとつの作品は時間の試練に耐え得るものになったのだ。

そのようにして歌われる表現としての情感は、フォークというよりもブルースに近づいて行った。それも、都心から電車に乗って帰る家のある郊外のブルース、サバーバン・ブルースだ。対象化というしかけを得て、サバーバン・ブルースはより山田の内面に深く根差すようになって行く。

『言葉の海に声を沈めて』『それを運命と受け止められるかな』と連打された「mono-omni-ripple」期のレバートリーは重く、生々しい内面の吐露なのに、それが手前勝手な自己満足に堕さず作品として完結しているのはブルースとしての通用力を獲得しているからにほかならない。『サテライト』と『手と手、影と影』をチャットGPTに取られてしまい、この時期のパートが濃く、重くなってしまったが、聴きごたえは十分あった。

そして活動休止、再開を経て発表されたアルバム「memori」からの『baby driver』『ブックエンドのテーマ』、加えて披露された4曲の未音源化作品の、開かれたポップさはどうだ。山田の個的な思いの一部がソロ活動のなかですくい取られたことで、バンドとしてやるべきことがよりはっきりした感がある。曲としての完成度は、こうやって「イン・アルペジオ」のころと比べてみれば歴然としている。

7月のライブとの曲目の重複は12曲。ゴメス・ザ・ヒットマンの来し方と、「今ここ」を同時に見ることのできる密度の高いステージだった。最後に出てきたプレクトラムのタカタがいいところを持って行った。

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