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佐野元春ライブ・アルバム「2022 LIVE AT SENDAI, FUKUOKA, OSAKA」レビュー

2022年4月から7月にかけ、全国12か所のホールで行われたツアー「WHERE ARE YOU NOW」から、ツアー中盤にあたる5月8日の福岡市民会館、同22日の仙台電力ホール、同29日の大阪・フェスティバルホールでの演奏を8曲収録したライブ・アルバム。iTunes Storeなどでのダウンロード販売、Spotifyなどのストリーミング・サービスでの配信でのリリース。

このツアーは7月2日の東京・TOKYO DOME CITY HALLでの公演で千秋楽を迎えたが、新アルバム「WHERE ARE YOU NOW」はツアー中にリリース告知があったものの実際の発売日はツアー終了後の7月6日であり、ツアーでは先行シングルの『銀の月』以外には新アルバムからの楽曲は演奏されなかった。佐野は「まずツアー・タイトルがあり、ギリギリまでタイトルの決まらなかったアルバムも同じタイトルにした」と説明している。

ツアー・メンバーは佐野の他、小松シゲル(ドラム)、深沼元昭(ギター)、藤田顕(ギター)、高桑圭(ベース)、渡辺シュンスケ(キーボード)というコヨーテ・バンドのメンバー。パーカッションを担当していた大井洋輔はこのツアーには帯同していない。

コヨーテ・バンドとの活動を始めてからの楽曲でライブを構成することの多かった近年のツアーからやや変化し、本作の収録曲からも窺えるとおりそれ以前のキャリアからの楽曲も相応に演奏されたことがこのツアーの特徴だった。またパーカッション・パートがないこともあってか同期演奏が多用された印象も強かった。ツアーの内容については、本作収録の公演とは別日であるがライブ・レビュー(三郷横浜東京)を参照してほしい。

本作を一聴して感じるのはまず演奏のレベルの高さだ。技術的なことをいえばもちろん同期のためのクリックに合わせていることも演奏をシュアなものにしている要因のひとつなのだろうが、それよりもコヨーテ・バンドが佐野の楽曲を媒介にバンドとしてひとつの高みに到達し、表現されるべきものについてのビジョンを共有していることが窺われる演奏だと思う。その意味でこのツアーでのパフォーマンスが音源として公開されることの意義は小さくない。

また、個別の楽曲でいえばこの時点での最新シングル曲である『銀の月』の演奏が印象的だ。この曲はスタジオ録音ではコンパクトにまとまったシングル向けのポップ・チューンの印象が強かったが、ライブでは特にブリッジ(「はかない世界さ」あたり)から間奏部分のギター・リフなどが相当ラウドでタフなイメージで、その表情の違いがこの曲の奥深さを感じさせた。佐野は中期のザ・フーを意識したと述べており、その本来の意味あいはライブでこそ実感できるものだと思うが、本作ではその意図の少なくとも一片はわかるのではないか。

ダウンロードや配信など音楽の流通が多様化したことで、パッケージ流通を想定しなければ従来よりも安価かつ機動的に音源リリースできる環境が整いつつある。そうした環境を生かしてライブ・アルバムやコンピレーションなどがアーカイヴとしてカジュアルにリリースされる可能性は高まったといえるだろう。今回の「ライブ・アルバム」リリースもそうした文脈で理解すべきものだと思っており、歓迎したいし今後の展開を期待している。

また、フェスティバルホールでは撮影も行われていた由であり、本作をリードに映像作品がリリースされることも期待したい。

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