マガジンのカバー画像

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論

29
1999年から2000年にかけて、雑誌「デマゴーグ」に連載した評論。雑誌は創刊から3号までで廃刊になってしまったので、連載も3回で終了したが、本来20回分ほどあるものを今回not… もっと読む
運営しているクリエイター

2020年3月の記事一覧

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(4) かすめ取られた果実

消費されたロックンロールここまでは、佐野元春が日本のポピュラー・ミュージック・シーンに持ちこんだものがリスナーにどう受け入れられ、どのような「約束」として結実して行ったのかということについて書いた。ここではその約束がしかし恐ろしい勢いで商業的にかすめ取られて行った過程と、それに呼応して佐野がニューヨークへわたったことの意味を考えてみよう。 佐野元春はインテリジェンスに裏づけられたロックンロールとでもいうべきもので、それまで日本の音楽市場では明確にカテゴライズされていなかった

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(3) イノセント

ある光佐野元春の音楽活動の中で、「無垢」や「真実」は繰り返し言及される極めて重要な概念である。これらについてもう少し考えてみよう。 アルバム「SOMEDAY」に『Rock & Roll Night』という曲が収録されている。8分以上にわたる叙事詩的な大作であり、佐野元春の代表曲のひとつだが、この曲で佐野は、「真実を探す旅」のことをいつになく直接的に歌っている。 「彼女」が「幼い頃どこかで見たことのある川」で迎える「まるで昔のよう」な「夜明け」、今は散り散りになった「友達」が「

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(2) 逆境のヒロイズム

ロックンロールとインテリジェンスの婚姻前回は佐野元春が日本のポピュラー・ミュージックに何を持ちこんだかということを見た。ここではそれがどのようにリスナーに受け入れられ、どのような約束として結実して行ったかということを考えてみたい。 佐野が日本のポピュラー・ミュージックに持ちこんだもの、それはリスナーの側からいえば、ロックンロールとインテリジェンスの婚姻に他ならなかった。それまで日本では、ロックンロールという言葉には常に革ジャン、バイク、リーゼントといったマッチョで暴力的なイ

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(1) 僕自身の物語を探して

これは1999年から2000年にかけて、雑誌「デマゴーグ」に連載した評論である。この雑誌は創刊から3号までで廃刊になってしまったので、連載も3回で終了したのだが、実際には20回分くらいの原稿を用意していて、最後には書籍の形で出版したいと思っていた。 あれから20年が経ち、佐野元春もデビュー40周年を迎えた今、原稿を引っ張り出してもう一度読み返すと、もちろん若気の至りっぽい気恥しいところは多々あるのだが、一方で「今はもうこうは書けない」という切れ味みたいなのを感じるところもあ