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2024.06.15 一種の賭け

生きてる。
私はトルコに来て、人と対面して話す喜びを改めて噛み締めていた。

スロバキアに駐在して1ヶ月。その月日の中で、対面して人と会話したのは長くて1時間と言っても過言ではない。

理由は2つ。
1. 仕事上、スロバキア人同僚との接点がないから。
私のプロジェクトは、日本とウクライナで直接やりとりをしている。スロバキア支部は実質的には関わっていない。だがウクライナとの時差などを考慮すると、近隣国支部に駐在させた方が仕事が円滑だからと、私はデスクを間借りしている。そうすると、スロバキア人同僚との会議もなく、業務上での接点は皆無となる。

加えて、リモートワークが進んでいるため、事務所に私1人しかいない...なんてことも日常茶飯事。多くて5人出社したらいい方だが、そのうち英語が話せるのは3人しかいない。

2.スロバキア人の国民性がスーパードライだから。
もちろん、話をふれば優しく答えてくれる。みんないい人。だからと言って「お茶しよう、飲みに行こう」とはならない。
共産国時代の遺産なのか、前任者曰く「心の内を明かさない」のがスロバキアスタイルらしい。

対面で話せない分、私の場合オンラインで解消していた。
元々教員の仕事を選択するぐらい、人と話すのが好きな私。自分の精神衛生を守るため、仕事でもプライベートでも、日本にいる同僚や友人と電話をするようにしていた。

だが、トルコに来て対面で会話する喜びを実感した。

5年ぶりにイスタンブール出身の旧友に会い、抱擁して挨拶。昔と変わらない、輝くオレンジ色の髪を靡かせていた。肌が透き通ったように白いため、オレンジのまつ毛と眉毛が映える。その風貌ゆえに、私と観光地に行くとトルコ人店員も、彼女に英語で語りかける。流暢なトルコ語で返すと、皆驚いた顔をするのを彼女は楽しんでいた。

7時間ぐらいかけて、スルタンアフメト・モスクやグランドバザール、ガラタ塔などを一緒に巡った。その道中で、各々の近況報告をし、トルコの文化や風習、世界情勢について語り合った。



特に興味深かったのは情勢についてだ。
「あなたはソフトとは言え、ムスリムだからガザ侵攻に反対しているの?」
「宗教関係なく、人道的に市民を巻き込んでいることに問題を感じているから、声を上げているの。何も言わないと、それは私が存在しないのと同じでしょう?」
ふむふむと思いながら、次第に私のウクライナ支援の話に移り変わった。
「でも、ウクライナは戦争がもう終わったでしょう?今は復興支援してるってこと?」
「っえ?!いや、まだ続いてるよ...。」
彼女は宗教は関係ないと言っていたが、ウクライナとガザで温度感が違うように感じた。その理由は分からないし、だからどう、ということはない。それぞれの関心の違いだから。ただ、個人的にその関心度の違いが面白いと感じた。

彼女と別れてから、宿に向かう途中、素敵なトルコ絨毯屋の前を通った。
店先に男の子が2人座っていたが、特に呼び込みをするわけでもなく、ひっそりとしていた。その雰囲気に心惹かれ中に入る。

店のオーナーらしき男性が奥から出てきて、品を並べ出す。ガッツリ売り込む雰囲気はない。だから、自由に見たいだけなんだけどなぁと思いつつ、私も適当に眺めていた。
絨毯の話から始まり、彼の経歴の話、若者の恋愛事情へと話が次々と展開していった。終いには、「まぁ、ちょっとチャイでも」とトルコティを差し出され、ソファに腰掛けて軽く1時間話に耽った。

8割彼が話をしていた。だが、それが心地よかった。
久しぶりに人と話せて嬉しいと彼に伝えると、明日のイード(イスラム教のお祝い)で食事を振る舞うから、よかったらおいでと誘われた。
こういう人と人の縁って大事だよなと思いながら、感謝の言葉を述べて店をでた。

フラッと入った店員と仲よくお話でき、そこから明日の食事まで誘ってくれる、トルコ人の人懐っこさに心が満たされた。運よく、お茶に睡眠薬も入れられていなかった。

こういう国で、どこまで人を信用するかは難しいところだ。
今日はよくても、明日はどうなるか分からない。彼がいい人と信じなければ、ローカルを知ることはできない。だが悪い人だったら、金銭を取られ、レイプの危険性もある。
一種の賭けだ。
一期一会と、スリル感。それがたまらなく、生きてるなと感じる。

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